“原発X基分” という計算から抜け落ちている視点

 日経新聞が「風力増強、原発10基分に」という記事を掲載していますが、大事な視点が抜け落ちてしまっています。

 どういった視点が抜け落ちていると言えるのでしょうか。

 

 日本で風力発電の導入が加速する。国内首位のユーラスエナジーホールディングス(HD)と同2位のJパワーがそれぞれ2020年までに600億円規模を投資する。国内全体の風力発電能力は現在の約3倍、原子力発電設備10基分に増える見通しだ。

 記事では風力の発電能力が原子力発電の設備10基分に相当すると述べられていますが、これは比較する前提条件が間違っています。

 実際に比較するには発電手法における稼働率で比較しなければ意味のないことだからです。

 

 例えば、孫正義氏が資金を投下している自然エネルギー財団は「風力発電は実は最も安定した電源である」と主張しています。その主張に対して、「それはどこで算出されたデータを基にした話ですか?」と質問しなければなりません。

 彼らが根拠としているのはポルトガル(イベリア半島)での話です。地理の授業を覚えている人はピンと来るでしょう。ポルトガルやその隣国スペインには年中吹き続ける “偏西風” の存在があります。

 しかし、日本国内に “特定の方向から吹き続ける風が吹く地域” が存在するでしょうか。

 

 孫氏と関わりの深いSBエナジーもホームページで次のような記載が存在します。

 日本においては、経済産業省やNEDOなどから、設備利用率の指標がしめされており、現在、太陽光発電で13%、風力発電は陸上で20%、洋上で30%とされています。

 この数値は正しいと言えるでしょう。なぜなら、日本風力発電協会が2013年に発表した自然エネルギー白書(PDF)の中で紹介されている北海道内での年度平均設備稼働率が 25% だからです。

 つまり、フル稼働が見込めないのであれば、どれだけ風力発電所を建設しても原子力発電の代替エネルギーにはならないということを意味しているのです。

 

 無風時は風力発電は稼働しません。必然的に風が弱まった時に備えて、バックアップ用の電源が不可欠になります。その結果として、火力発電所が建設されることとなり、「環境にやさしい」とは言い切れないことが実状です。

 環境問題重視であるから『原子力発電+揚水発電』の組み合わせなのですが、原子力発電アレルギーを発症している人達からすれば、絶対に受け入れることができないパターンと言えるでしょう。

 原子力発電を否定する人々はそれによって生じた弊害に対する責任を取っていません。電気代上昇や再生可能エネルギー割賦金がその代表例ですが、そういった人達が「私達が電気代の値上げ分を賄います」「原子力発電を止める必要な支出だ」という声が上がることはありません。

 それだけで、彼らは自然エネルギー利権に群がる金の亡者と名指しするのに十分なのではないでしょうか。