保育所の待機児童問題は “住みたい街ランキング” 上位が抱えるローカル問題だ

 はてな匿名ブログに掲載された「保育所の待機児童問題」に対する八つ当たり的な主張に賛同した人々が国会前でデモ活動を行ったことが伝えられています。

 しかし、この問題を政府の責任にするのは間違っています。なぜなら、待機児童の問題はごく一部のローカルな話題であり、地方自治体が対応すべき問題としてたびたび指摘されてきた経緯があるからです。

 

 SUUMO (スーモ)で公開されている『住みたい街ランキング』から2015年関東地区で行政区ランキングで総合1位に選ばれた世田谷区を例に出してみましょう。世田谷区は優れた住環境が評価される反面、人気区ならではの問題も抱えていると次のように明記されています。

 なかでも大きいのが保育所の待機児童の問題。世田谷区の保育園不足は東京23区内でも深刻で、平成26年度の待機児童数は1109人。全国ワーストワンだ。区では現在、民間企業やNPO法人にも門戸を開き、“保育の質”にこだわりながら施設の数を増やしていく方針を打ち出していて、今後の改善に期待がかかるところだ。

 ただし、世田谷区のこれまでの対応を見ると、施設数が増えることはないでしょう。2013年に行われた規制改革会議の中で、世田谷区で保育所を運営できるのは社会福祉法人だけという事実のカルテルが存在することが指摘されているからです(PDF)。

 

 また、議事録(PDF)にも次のようなやりとりが残されています。


 山口JRホールディングス代表取締役:世田谷区さんの件で言うと、まず、公判の話ですが、許認可権は自治体にございます。東京都の場合は、区ではなくて、東京都がその許認可権を持っているわけですが、その区が東京都に推薦を上げないと、東京都も審議ができない。そういう意味で、区のレベルで推薦も上げないよという措置をされているということでございます。法的根拠というのは、少し私もよく分からないのですが、もしかしたら訴えれば、それなりの効果はあるのかなと思います。

 岡素之議長:今の関連ですけれども、いただいた資料に「要項に社福のみの記載あり」と書いてあるのですけれども、この要項というのは、何の要項ですか。

 山口代表取締役:これは区が発行している募集要項でございます。


 このことから分かるように、国会前でデモ活動をしている人々が抗議すべき先は地方自治体でなければならないのです。国会前でパフォーマンスをするほど、サヨクの活動として世間から敬遠されることになるでしょう。

 

 ちなみに「保育所に落ちた」という表現はピントがズレています。なぜなら、入園希望者の能力によって選別している訳ではないからです。

 実際には親(保護者)の住民税納税額によって割り当てられた枠を希望者に配給するというシステムを採っています。

 納税額によって保育費も変動しますし、公立の保育所ですから、納税額の低い世帯の方が受かる確率が高くなると言えるでしょう。(収益のある)裕福な世帯は費用のかかる民間の保育所を利用すべきとの考えがあるためです。

 しかし、サラリーマン世帯の納税額はガラス張りで完全に捕捉されていますが、自営業はそこまで高くありません。“クロヨン” や “トーゴーサンピン” と揶揄される所以です。そのため、自営業であれば、意図的に(保育所に受かりやすい)低めの所得に下げることが可能となり、不公平な状況を生み出す原因となっています。

 

 保育所を利用している世帯にとっては残念なことですが、問題が全国で解決される見込みはないでしょう。解決されると困る勢力がいるからです。

  • 社会福祉法人が経営主体となりカルテルができている
    → 民間(株式会社などの)参入を認める
  • 保育所の運営費は補助金が9割を超える
    → 保育バウチャーを子育て世代に給付

 少子化の時代ですから、子供たちの数は減少します。つまり、将来的に保育所間での子供達の獲得合戦が行われる可能性が高くなることが予想されるため、社会福祉法人は保育所の数を増やすことに難色を示すでしょう。

 全国でまんべんなく子供が分散していれば、待機児童の問題は起きる可能性は低くなります。ですが、東京などごく一部の都市に集約化が進んでいるのですから、その地域だけがキャパシティを越える事態となっているのです。

 当然、補助金を惜しみなくつぎ込むことに自治体は乗り気ではありません。

 子育て世代を所得格差に関係なくフェアに扱うのであれば、“保育バウチャー” を政府が給付することでしょう。公営であれ、民営であれ、コストに見合った保育費であり、“保育バウチャー” という給付金が使えるのであれば文句はないはずです。

 また、保育所に預けるのが嫌なら、“保育バウチャー” を使ってベビーシッターを雇えるような体制を整えれば済む話と言えるのではないでしょうか。