シャラポワのドーピング陽性問題で気になったこと メルドニウムを使う動機が分からない

 女子テニスのマリア・シャラポワ選手が今年1月に行われた全豪オープンで禁止薬物の陽性反応が出ていたことを3月7日の記者会見で明らかにしました。

 正式な処分については国際テニス連盟の裁定を待つ形となりますが、おそらく一定期間の出場停止処分が下されることになるでしょう。NHK などで報じられた今回の状況を整理すると、次のようになります。

 

  • 1月26日にシャラポワ選手の検体からメルドニウムが検出
  • メルドニウムは2016年1月1日から新たに禁止薬物に指定
  • 禁止薬物の追加等のアナウンスは2015年のクリスマス前後にメールで配信
  • シャラポワ選手はこの10年間、医師からの処方されたメルドニウムを含んだ薬を服用

 少なくとも、メルドニウム(Meldonium)という薬物が鍵を握っていると言えるでしょう。このメルドニウムは東欧では一般的に普及しており、ラトビアの大手製薬会社であるオラインファーム(OlainFarm)社の製品が有名だと思われます。

画像:オラインファーム(OlainFarm)社製のメルドニウム

 メルドニウムですが、狭心症や心筋梗塞の治療に使われる処方薬として誕生し、現在では “ホルモン調節薬および代謝調節薬” に分類されています。そのため、免疫の活性化や心臓保護の効果があると位置づけられ、広く普及しています。

 しかし、最近の研究で上記の効果とは別に『持続力や回復力の向上作用』、『中枢神経の活性化による耐ストレス面での向上作用』があることが判明したため、2016年から禁止薬物に加えられたという経緯があります。

 

 ちなみに、ロシア人自転車ロードレース選手であるエドゥアルド・ヴォルガノフ選手が2016年1月14日に行われたレース外の検査でメルドニウム陽性反応を示しています。

 ヴォルガノフ選手の件で注目すべき点は多くの自転車ロードレース選手が「メルドニウムが禁止薬物入りしていたことを知らなかった」と口にしていることでしょう。

 つまり、東欧に生活基盤を置くスポーツ選手やチームにはヴォルガノフ選手と同様に知らずに利用している可能性があることを意味しています。ただ、このヴォルガノフ選手のケースとシャラポワ選手のケースには大きな違いがあります。

 

 

 シャラポワ選手もヴォルガノフ選手も同じロシア人なのですが、生活している場所が異なります。

 ヴォルガノフ選手はロシアに本拠地を置く、ワールドツアーライセンスを保有するカチューシャの一員で、ヨーロッパを中心に活動している自転車ロードレース選手です。EU 加盟国であるラトビアで製造されたメルドニウムを手にすることは比較的容易な立場にあったと言えるでしょう。

 一方のシャラポワ選手はロシア人ですが、生活の基盤をアメリカに置くテニス選手です。

 テニス中継での選手紹介で『国籍/出身地/生活拠点」が表示された選手プロフィールを見た方も多いでしょう。例えば、錦織圭選手の場合は『国籍:日本/出身地:島根県松江市/生活拠点:アメリカ・フロリダ州』と紹介されるケースがほとんどとなっています。

 したがって、シャラポワ選手の場合は「アメリカに生活拠点を置く選手が、アメリカ当局から承認されていないメルドニウムを服用していた理由」についての説明が不可欠になるのです。

 

 幼少期にアメリカを渡ったシャラポワ選手が “ホルモン調節薬” としてメルドニウムを選択するのは合理的とは言えないでしょう。本人が選択するのであれば、アメリカで広く流通している医薬品の中から選択されることが一般的となるはずです。

 シャラポワ選手に処方した医師が東欧に所縁の深い人物だった可能性も現時点では否定できませんが、こちらはドーピングの調査中という理由から具体的な説明は行われていません。

 意図的なドーピングだったかはこれから明らかになるでしょうが、禁止薬物を使用し、大会に出場したことは事実であり、その件に対する処分が下されることは当然と言えるでしょう。もし、人気選手であるシャラポワ選手に寄り添った甘い判定を下すようなことがあれば、第2のランス・アームストロング事件の序章となるかもしれません。