シャラポワの弁護士が処分軽減に自信を見せているが、そのロジックは通用しない
ドーピングが発覚したマリア・シャラポワ選手の弁護士を務めるジョン・J・ハガティ(John J. Haggerty)氏が『デーリー・テレグラフ紙』に対して、処分軽減に自信を見せていることを AFP 通信が伝えています。
ハガティ氏は処分軽減のための具体策として2つほど根拠を示していますが、残念なことに自身がドーピングに明るくないことを露呈させてしまっています。では、その理由を指摘することにしましょう。
1:治療目的使用の適用措置
シャラポワ側の主張は「ドーピング陽性だったことは認めるが、故意ではなく情状酌量を求める」というものです。
一般で使用される医薬品には世界アンチ・ドーピング機構が禁止薬物としている成分が含まれています。アスリートも怪我や病気の際には治療目的でその医薬品を使用せざるを得ない訳ですから、その場合は例外的に摂取することが認められます。
治療目的使用の適用措置(Therapeutic Use Exemption: TUE)と呼ばれる制度なのですが、昨今では “新たなドーピングの温床” として名指しされている現状があります。
例えば、ドーピングが頻繁に取沙汰される自転車ロードレースでは “喘息の治療目的” で TUE の申請を行っている選手が数多くいます。実際に喘息の持病を持っている選手もいるのですが、治療薬を服用すると気管を広げる効果が得られるため「持続力がアップし、疲労蓄積が軽減される効果」を悪用する選手の存在が指摘されているのです。
要するに、喘息の症状を持たない選手が医師とグルになり、処方箋を手に入れれば、TUE を申請することで合法的にドーピングができてしまうことが問題となっています。
ハガティ弁護士は「治療目的使用の適用措置(TUE)を主張する選択肢がある」と述べているようですが、TUE はドーピング陽性反応が出た後に申請するものではありません。
事前に申請し、許可を得てから選手が服用する制度ですから、順序が逆になっていることを見落としてしまっています。
TUE を根拠にするのであれば、禁止薬物に指定された医薬品の服用申請を怠った医師の責任は重大です。また、メルドニウムは服用が常態的に行われる医薬品ではないこともネガティブと言えるでしょう。
2:マイクロドーピングという新手の手法
記事の中で記載されているハガティ弁護士のコメントも軽率なものと言われるリスクがあります。
「それにマリアの服用量は、運動能力の向上につながるミルドロネート(mildronate、メルドニウムの別名)の量よりも、はるかに少ないものだった」
実は、ドーピング対策として導入されているバイオロジカル・パスポートをマイクロドーピングという手法で欺けることが明るみになったからです。
マイクロドーピングとは名前が示すように検査で陽性とならない微量のドーピングを行うというものです。検査に合わせて数値を下げる目的で摂取を一時的に中断すれば、発覚するリスクはさらに下がるでしょう。
このマイクロドーピングは従来型ドーピングの半分程度しか効果は得られないのですが、検査に引っかからないことを考慮すると、この手法が蔓延していたとしても不思議ではないと思われます。
「服用量は微量だが、継続的に摂取していた」というのはマイクロドーピングの手口そのものです。シャラポワ選手がシロであると決めるにはあまりに早すぎると言えるでしょう。
少なくとも、ハガティ弁護士のフォローは効果が薄いということだけは確かなだと言えるのではないでしょうか。