モータードーピングで初の失格となった女子選手、公聴会に出席せず現役引退を表明

 自転車競技の1つであるシクロクロスで世界初のメカニカルドーピングで失格となったフェムケ・ファンデンドリーシュ(Femke Van den Driessche)が現役引退を表明しました。

画像:引退を表明したフェムケ・ファンデンドリーシュ

 『Sporza』というベルギーのテレビ局でそのことを発表したのですが、 UCI (国際自転車連盟)からの公聴会が開かれる前に表明したこともあり、本人が求める「安心して暮らせる配慮」が行われるかは微妙であると言えるでしょう。

 

 まず、事態を把握するにはシクロクロスという競技を知る必要だと思われます。

 シクロクロスは1時間ほどの競技時間で周回コースを自転車で走行して順位を競います。サイクルロードレースと異なる点は『舗装路』『未舗装路』『自転車を乗ったままでは登れない未舗装の上り坂』といった要素が組み合わさっていることでしょう。

画像:自転車を担ぐファンデンドリーシュ

 フェムケ・ファンデンドリーシュは23歳以下のカテゴリで現ベルギー王者であり、現ヨーロッパ王者でもありました。

 自転車はヨーロッパの地域レベルがずば抜けて高いため、ファンデンドリーシュはシクロクロス世界選手権女子(U-23)の優勝候補本命と目されたのですが、優勝争いに絡めなかっただけでなく、最終ラップでは自転車を押してゴールしたことから抜き打ち検査が行われモータードーピングが発覚しました。

 

 選手当人は以下のような弁解をしていましたが、Jsports でサイクルロードレース番組の解説をしている栗村修氏はブログで「突っ込みどころが満載すぎてまったくもって言葉がでません...本当に恥ずかしいです」と呆れ返っている有様です。

  • モーターが内蔵されていた自転車(スペアバイク)は自分のものではない
  • その自転車は1年前に友人にあげたもの
  • 友人は大会前日にコースを走行し、自転車を立てかけていた
  • そのため、メカニックが私のものと誤認し、洗浄してレース用に準備した
  • 自分はレースをしていただけで、間違ったことは何もしていない

 

 「問題の自転車はスペアバイクで競技には使用していない」と弁解すれば、問題ないと思う人もいるでしょう。しかし、シクロクロスは未舗装路を走行する競技であり、自転車は泥まみれになる特徴もあります。

 そのため、頻繁に自転車交換を行う必要があり、ピットにスペアバイクがあったことは競技で使用する意図があったと見られる可能性は大いにありますし、それについての弁解も避けて通ることはできません。

 新しい機材が毎年メーカーから発表されるにもかかわらず、1年前のモデルに気づかないことは不自然なことです。また、モーターを内蔵させるとおそらく2キロ弱は自転車が重くなるでしょう。明らかに重くなった自転車に選手もメカニックも気づかないとは非常に考えにくいものがあります。

 使用する自転車の数が増えたことを疑問に思わないメカニックがいるとも思えないですし、選手についても同じです。

 

 自身の潔白を証明しようとすることは、釈明した発言内容の不自然な点を追求されることとセットになっています。

 墓穴を掘るリスクを避けるという意味で引退して “逃げ” を打つことは有効策です。名誉は回復できませんが、悪化させることは防げるからです。

 クロと断定される前にクロにかなり近いグレーだったと結論づけて問題ないでしょう。自転車競技界に留まるにはふさわしくない人物だったようです。