15年前から売上高を半減させても、業績不振ではないと認定される大企業がある模様です

 業績不振を理由に一方的に解雇されたことは違法として日本アイ・ビー・エム(IBM)を訴えていた元社員が東京地裁で勝訴したとメディアで報じられています。

 “労働者の権利” を守り、クライアントに勝利をもたらした弁護士からすれば、実績としてアピールできることでしょう。しかし、多くの従業員にとっては迷惑な判決だと言えそうです。

 

 原告側によると、日本IBMで働いていた原告5人は2012年から2013年にかけて、具体的な理由を伝えられないまま「ロックアウト解雇」を受けたという。日本IBMからは、数日以内に自主退職に応じれば、退職金を上乗せするなどとの提示があった。しかし、5人は会社の提案に応じず、解雇の無効や期間中の賃金の支払い、慰謝料などを求めて提訴した。

 (中略)

 解雇は客観的に合理的な理由を欠き、「権利濫用として無効」とした。ただし、給与の支払い等を理由に、損害賠償請求は認めなかった。また、会社が解雇通告と同時にロックアウトしたこと自体は違法ではないとした。

 

 日本 IBM は “日本企業と外資系企業を足して2で割った” と言われ、両者の良い面を持った優良企業の1つで、2001年には過去最高となる売上高1兆7000億円を記録するほどでした。

 ところが、この年を境に業績が下がり始め、2014年の売上高は8800億円とほぼ半減しています。原告が解雇された2012年は売上高が8500億円と “底” に該当する時期でしたので、パフォーマンスの悪い社員は肩叩きに遭っていて当然と言えるでしょう。

 

 原告側は『ロックアウト解雇』と銘打っていますので、ロックアウト自体も違法であるとの認定が欲しかったのだと思われます。

 ですが、ロックアウトも違法にされてしまうと、企業側は甚大なリスクを負うことが要求されます。なぜなら、解雇通知を受けた社員が逆恨みを理由に損害を与えることが可能だからです。

 IBM のエンジニアであれば、大手金融機関など担当するシステムへのアクセス権を持っているでしょう。権限がなくても正しい業務プロセス上に則って180度異なる指示を出すこともできるのですから、会社側としては問題を予防する上でも、ロックアウトの権利は不可欠と見なされるでしょう。

 

 勝訴を勝ち取った社員5名ですが、IBM での前途は厳しいと思われます。

 経営環境が厳しくなっている企業では昇給・昇進が凍結されていることが往々にして存在します。おそらく、日本 IBM でも同じような措置が取られていた可能性が大いにあります。そうなると、割を食うのは20代や30代の若手エンジニアです。

 その一方で裁判に打って出た40代や50代のパフォーマンスの悪いエンジニアは「年功序列の恩恵を受けて給料が高い割にアウトプットは乏しい」といった典型的な “お荷物社員” として周囲に迷惑をかけ続ける存在となるのです。

 彼らは IBM の強みであったハードウェアや大手企業向けのシステム開発では大きく貢献してきたのでしょう。ですが、サーバーがクラウドで置き換えられ、大手企業の IT 化がほぼ完了した現状では仕事がないのが実情です。

 

 IT 化の波は中小企業にも伝播するのですが、日本の中小企業は大手企業のように特別仕様を要求する傾向にあります。スルガ銀行と揉めた件でそのことを痛感した IBM はこの分野に積極的に踏み込もうとはしないと思われます。

 また、牙城だったサーバーについても、セールスフォースやアマゾンのクラウドサービスにシェアを奪われ、苦境に立たされています。少なくとも、大手企業のシステム保守・管理だけでは高給な社員の給与を捻出することは難しいと言えるのではないでしょうか。