反原発キャンペーンをメディアが展開した結果、廃炉研究を行う人材すら育成できなくなったという笑えない事態に

 NHK は東日本大震災の後、原子力発電所の規制が強化された影響で研究用の原子炉の運転もできなくなり、その結果、原発や廃炉に向けた安全検証を行う人材の育成に深刻な影響が出ていると報じています。

 ですが、この問題は早くから指摘されていたことであり、特に驚きではありません。むしろ、原発問題に対して冷静な報道ができなかったメディアが引き起こした問題の1つと言えるでしょう。

 

 東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと原発の規制が強化された影響で、大学などの研究用の原子炉もすべて運転できない状態が続いています。この結果、原発や廃炉の安全を担う人材の育成に深刻な影響が出ているとして、大学教授らが国の原子力委員会に窮状を訴えました。

 (中略)

 日本原子力学会に所属する大学の教授などが国の原子力委員会を訪れ、東京大学の上坂充教授は、「震災の前に研究炉を使っていた学生や研究者はおよそ1700人いたが、今は海外の装置を使ったり研究テーマを変えざるをえなかったりする学生も出ている」と述べて、将来の原発や廃炉の安全を担う人材の育成に深刻な影響が出ている現状を訴えました。

 www3.nhk.or.jp

 

 現時点でも、一部のメディアは「原発が問題の元凶である」というスタンスを崩していません。しかし、そういったメディアこそ真剣に考えなければならないことがあります。

 それは『日本国内に現存する原子力発電所を安全に廃炉を行う手順を誰が責任・監修するのか』ということです。

 「運転さえ停止しておけば、何も問題はない」とでも考えているのでしょうか。だとすれば、致命的な間違いをしています。停止しただけでは原子力発電に利用するプルトニウムやウランが燃料という形でその場に放置されていることと変わらないからです。

 

 原子力発電所の燃料を核兵器に流用することはできません。しかし、濃縮装置などを用意すれば、核兵器に転用することは可能であり、取り扱いや管理には細心の注意を払う必要のある物質であることは明らかです。

 それには「最新の取り扱い方法や、安全面を考慮した燃料や作業員の管理体制」を確立していることが不可欠であり、その調査・研究は大学などが担ってきました。

 テレビや新聞で「(福島第一原発の)廃炉作業には40年という長い時間を要することとなります」という発言を見聞きした記憶があるはずです。これは「原子力産業は最低でも後40年は不可欠であり、どれだけ少なく見積もったとしても、その間の研究費や人材を確保する必要がある」という意味が含まれているのです。

 ですが、反原発運動にのめり込んだメディアにはこの現実を理解できなかったのでしょう。先進国でのマスコミ産業よりも、まだ有望性がありそうです。

 40年と言えば、新卒で入社した会社に定年まで勤めた場合とほぼ同じ時間を意味します。入社時から全く同じ仕事をし続けている人はまずいないでしょう。仕事で利用するツールが変わり、求められる仕事の水準が上がるため、スキルアップが要求されるからです。

 

 原子力発電の運転や廃炉作業が安全に行える保証をマスコミが持っているなら、根拠を示した上で「原子力研究はもう不要である」と主張すれば良いでしょう。

 それができないであれば、1つの有望産業を潰した張本人として歴史に名を残すことになると言えるのではないでしょうか。