『パナマ文章問題』が大きく報じられないのは、日本国内にタックスヘイブンが存在するからだ

 パナマにある “その筋” では名の知れていた法律事務所『モサック・フォンセカ』が関わったと見られるタックス・ヘイブン(租税回避地)を利用した金融スキームが暴露され、世界中で大きく報じられています。

 しかし、この件において日本とアメリカだけは極端に当事者が少ないという特徴があります。その理由はどういったことが考えられるのでしょうか。

 

 それにはまず、タックス・ヘイブン(Tax haven, 租税回避地)について知る必要があります。

 タックス・ヘイブンとは、法人税や所得税などの税金がゼロ、または、極めて低い国や地域のことを指します。カリブ海(バージン諸島やケイマン諸島など)やヨーロッパ(ジブラルタルやチャネル諸島など)などが名の知れた存在と言えるでしょう。

 これらの地域では法人税や所得税を低くして、国外や地域外から資本を呼び込み、どの国でも存在する登録料収入だけを徴収するという手法を採用しています。

 

 このタックス・ヘイブンへの対処が難しい理由は、これらの手法がすべて合法であることです。違法であれば、官民を問わず批判することは容易なのですが、国際的に認められた適法行為を批判することは民主主義国家に属する人々はできないというジレンマに陥っているからです。

 日本の法人税は約 35% と主要国ではアメリカに次いで高い税率です。

 例えば、日本の家電大手メーカーであるパナソニックは調達・ロジスティクスに関わる本部機能を2012年4月から順次シンガポールに移動させていますが、これはシンガポールの法人税率が 17% だからです。

 この動きを「節税行為だ」とメディアや政治家が批判したところで、「税制を含めたすべての環境面でベストな場所に本社機能を置くことは企業として当然だ、現地で働く社員もいるのに何が問題なのか」と反論されるだけでしょう。企業の国外流出が嫌なら、異様に高い税率の法人税を止めれば済むことだからです。

 

 今回の『パナマ文章』で大きな問題となっているのは、マネーロンダリングなどが行われる “地下経済” の金の流れが表沙汰になったことと言えるでしょう。

 ただし、この手のリーク情報には本物の情報と偽物の情報が入り乱れているため、どの内容が正しいものであるかが解明されるまではそれなりの時間を要すると予想されます。

 会社登記で収入を得ることがタックス・ヘイブンでビジネスをする企業の収益源です。当然、顧客を獲得するために、(この人物から隠し口座を持っていても不思議ではないと思われる)世界的著名人の名前を顧客勧誘用に使うことが十分に考えられるからです。

 

 

■ アメリカ関連の報道がないのはデラウェア州と FATCA が理由

 『パナマ文書』問題でアメリカ企業やアメリカ人の名前がほとんど皆無だったため、アメリカ政府による陰謀だと感じた人もいるでしょう。ですが、タックス・ヘイブン(租税回避地)を利用した『節税』をアメリカ企業がパナマで行う必要などどこにもないのです。

 アメリカ国内で稼いだ利益に課された税金を支払わないことは『脱税』に当たるため、懲罰的賠償を科されるリスクを冒してまでタックス・ヘイブンに資金移転させようとする経営者はおそらくいないでしょう。

 この訴訟リスクを下げるため、判例を予想しやすいデラウェア州で登記する企業が多くなっています。また、「ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチ(Double Irish With a Dutch Sandwich)」などの手法で合法的に納税する手法を編み出す企業が(訴訟リスクが増える)危ない橋を渡る可能性は低いままです。

 

 アメリカ人個人についても、FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)が2010年に設立されたため、税金逃れは実質的に不可能となっています。

 アメリカの税制で定義されたアメリカに納税義務のある人物がアメリカ国外で口座を開設しようとした場合、銀行側がアメリカ当局に『顧客氏名・住所・口座番号・納税者番号・口座残高などを報告する』というものです。

 仮にパナマでアメリカ人が銀行口座を開設したとしても、アメリカ当局には筒抜けなのですから、わざわざペーパーカンパニーを利用して良からぬことをしようとは思わないでしょう。

 

■ 日本にも存在するタックス・ヘイブン

 日系企業も『パナマ文書』問題との関わりで、名前が報じられていますが、大きな社会問題となる可能性は低いでしょう。

 日本の法人税率は 35% と高いのですが、それが課されるのは黒字企業だけです。つまり、赤字企業であれば、資本金に基づく分だけであり、公的資金が注入された場合は納める税金額はほぼゼロになります。

 バブルが弾けた後に多額の公的資金が注入された銀行はその返済が終わる 10〜20 年は法人税を支払っていません。また、破綻した JAL も負債分が相殺されるまで法人税は免除されるという恩恵を現在も受けています。

 こうした企業にとっては、日本の税制そのものがタックス・ヘイブンなのです。日本では収支決算の利益額を大きくしなければ、高額な法人税から逃れることが可能であるため、利益率が意図的に悪くしているのではないかと問題視されている状況でもあるのです。

 

 子会社を用いて利益額を圧縮しているマスコミが “日本版タックス・ヘイブン” を厳しく追求することはないでしょう。自らに火の粉が降りかかるリスクを背負ってまで報道するメディアはないと言えるのではないでしょうか。