北島康介が出場権を逃した男子平泳ぎ100mの派遣標準記録 “59秒63” は妥当か
リオ五輪の出場権を賭けた競泳の日本選手権が東京で行われていますが、男子平泳ぎ 100m では優勝した小関也朱篤選手と2位の北島康介選手は派遣標準記録を突破できませんでした。
ただ、北島康介選手は準決勝で “59秒62” の記録を出していたことから、一部では派遣しても良いのではという声もあります。派遣標準記録として設定された “59秒63” は妥当なものと言えるのでしょうか。
そのためには、世界大会でのどのぐらいの成績が必要とされているかを知る必要があります。メダルを獲得するには3位以内に入る必要がありますし、入賞圏内は8位です。
国際水泳連盟(FINA)に掲載されている世界ランキングから2013年以降の男子平泳ぎ 100m の記録を確認することにしましょう。
Rk | 選手名 | タイム |
---|---|---|
1 | クリスチャン・スプレンガー (Christian Sprenger, AUS) |
58.79 |
2 | キャメロン・ヴァンデルベルフ (Cameron van der Burgh, RSA) |
58.97 |
ー | リオ五輪派遣標準記録 | 59.63 |
3 | フェリペ・リマ (Felipe Lima, BRA) |
59.65 |
4 | ダミル・ドゴニッチ (Damir Dugonjic, SLO) |
59.68 |
5 | ファビオ・スコッツォーリ (Fabio Scozzoli, ITA) |
59.70 |
6 | ケビン・コーデス (Kevin Cordes, USA) |
59.78 |
7 | キリル・ストレニコフ (Kirill Strelnikov, RUS) |
59.80 |
2013年はバルセロナで行われた第15回 FINA ワールドチャンピオンシップで出された記録が上位を占めています。
“59秒63” は3位に入れる記録なのですが、オリンピック翌年であることを注意が必要です。これは有力選手が休養を取っていることが考えられるからです。
それもあってか、2014年や2015年の世界記録を確認すると、リオ五輪の男子平泳ぎ 100m の派遣標準記録は妥当なものと言わざるを得ません。
Rk | 選手名 | タイム |
---|---|---|
1 | アダム・ピーティー (Adam Peaty, GBR) |
58.68 欧州選手権 |
2 | クリスチャン・スプレンガー (Christian Sprenger, AUS) |
58.87 豪州選手権 |
3 | キャメロン・ヴァンデルベルフ (Cameron van der Burgh, RSA) |
59.28 英連邦選手権 |
4 | ロス・マードック (Ross Murdoch, GBR) |
59.33 欧州選手権 |
5 | ギエドリウス・チテニス (Giedrius Titenis, LTU) |
59.35 欧州選手権 |
6 | ジュルタ・ダニエル (Gyurta Daniel, HUN) |
59.58 欧州選手権 |
7 | 小関也朱篤 (Yasuhiro Koseki, JPN) |
59.62 パンパシ水泳 |
ー | リオ五輪派遣標準記録 | 59.63 |
8 | ケビン・コーデス (Kevin Cordes, USA) |
59.70 パンパシ水泳 |
Rk | 選手名 | タイム |
---|---|---|
1 | アダム・ピーティー (Adam Peaty, GBR) |
57.92 英国選手権 |
2 | キャメロン・ヴァンデルベルフ (Cameron van der Burgh, RSA) |
58.49 世界選手権 |
3 | ジュルタ・ダニエル (Gyurta Daniel, HUN) |
58.96 世界選手権 |
4 | ロス・マードック (Ross Murdoch, GBR) |
59.09 世界選手権 |
5 | フェリペ・リマ (Felipe Lima, BRA) |
59.21 世界選手権 |
6 | ディミトリー・バランディン (Dmitriy Balandin, KAZ) |
59.38 世界選手権 |
7 | ジェイク・パッカード (Jake Packard, AUS) |
59.44 世界選手権 |
8 | ケビン・コーデス (Kevin Cordes, USA) |
59.51 シリーズ戦 |
ー | リオ五輪派遣標準記録 | 59.63 |
2015年はロシアのカザンで第16回 FINA ワールドチャンピオンシップが開催されており、多くの記録がそこで出たものです。また、それとは別にアダム・ピーティー選手が世界記録を樹立した年でもあります。
水泳の決勝が8名で争われることを考えると、国内大会の決勝という舞台で派遣標準記録を突破できないようであれば、オリンピックでは決勝進出(=入賞)すら難しいということが現実と言えるでしょう。
「4月初旬の時点でオリンピック決勝と同じような記録を求めるのか」という声もあると思われますが、求められる記録の水準は決勝進出に必要なタイムと同等なのです。
今年はピーティー選手が59秒55、ヴァンデルベルフ選手が59秒61という成績を残しています。ここからコンディションを上げてくることが予想されるだけに、派遣標準記録を突破しておくことが彼らと戦えるかの試金石だったと思われます。
競泳では男子平泳ぎ100m以外でもメダルや入賞が狙える選手がいます。そのため、入賞の見込みが少ない選手(および、そのコーチやスタッフ)をオリンピックに派遣し、選手団の数を増やすことは批判を招くことになるでしょう。
したがって、選考会の決勝一発勝負で代表選手を決める方法は理にかなっていると言えるのではないでしょうか。