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梅丹本舗の “古式梅肉エキス” でドーピングによるペナルティを受けるリスクは低いだろう

 ドーピングが蔓延していた歴史を持つ自転車競技界において、スポンサー企業が提供するサプリメント食品から禁止薬物が検出されたと NHK が報じています。

 何も知らない選手にドーピング陽性反応が出て、トラブルになるのではないかと一部報道で懸念が示されています。しかし、そうなる可能性は低いと言えるでしょう。

 

 問題となったサプリを販売していた『梅丹本舗』は公式サイト上で、本件についての声明(PDF)を発表しています。

 発表内容によりますと、タンパク同化ステロイドの一種である “ボルジオン(Boldione)” がスクリーニングの段階で検出されたということです。ただ、声明の中でも言及されているようにボルジオンは自然界に存在します。

 つまり、「運動後に摂取すると疲労が抜けやすい」と昔から言われている(梅のような)食品には “ボルジオン” と同じ化学構造式を持ったタンパク質が含まれていても不思議ではないのです。

 “タンパク同化” という言葉は「摂取したタンパクを主に筋肉で細胞内組織に変える働きを持つ」という意味で用いられます。ステロイドという言葉からは筋肉を肥大化させるイメージの方が強いのですが、運動後に傷ついた筋肉を回復させるという目的も “タンパク同化” という働きの中にあることに注意する必要があります。

 

 現時点では、『梅丹本舗』が調査を依頼したイギリス LGC 社から「スクリーニングの段階で “ボルジオン” の検知があった」との報告を受けた状態で “ボルジオン” の含有量についての詳細は数値は公表されていません。

 ただ、『梅丹本舗』が推測する数値を見る限りではドーピング検査で陽性となる可能性は低いと思われます。

  • 治療目的での摂取:10 〜 50mg/日
  • ドーピング目的での摂取:100 〜 2500mg/日
  • 梅肉エキス1g:0.00005mg(梅丹本舗による推測値)

 

 1日の推奨摂取量は 3g とのことですが、それであっても 0.00015mg (0.15 μg) と低い値であり、ドーピング効果を得ることは難しいでしょう。

 体内で摂取・消費されて効果が出るのですから、摂取量が微量であることを考えると、体内で消費され切っており、体外に排出されることはないと思われるからです。

 しかし、特に自転車ロードレース界では “魔女狩り” と言うべき対応を国際自転車競技連合(UCI)が行ってきた経緯があるだけに注意が必要です。

 

 それを象徴するエピソードは「クレンブテロール陽性反応」でしょう。

 クレンブテロールは減量作用や気管支拡張作用があるため、禁止薬物に指定されています。ところが、畜産業界では肉質向上を目的として飼料に混入されているケースが存在します。

 “汚染肉” によってクレンブテロール陽性反応を示したと主張した選手も実際にいるのです。

  • リー・フーユー:2010年4月
    → 現役引退
  • アルベルト・コンタドール:50pg/ml(2010年10月)
    → 釈明は認められず、2年間の出場停止
  • マイケル・ロジャース:2013年12月
    → 翌2014年4月に処分取り消し

 代表的なのは上記3選手でしょう。特にコンタドール選手への処分内容は大きな波紋を呼びました。

 なぜなら、検出された量が 50pg (ピコグラム)と微量だったからです。1pg は “1mg の10億分の1” です。「この検出量なら、汚染されたスペイン産の牛肉ステーキを口にしたから」というコンタドールの主張を擁護する声もあったのですが、合計で2年の出場停止となりました。

 ですが、その3年後に同じくクレンブテロール陽性反応を示したマイケル・ロジャース選手は「汚染した肉を食べたため」という理由が認められるというケースが起きています。

 

 その理由として考えられることは UCI のドーピングに対する考えが変化したことが挙げられます。

 1つ目は2012年のツール・ド・フランスで “クリーンさ” を売りにしていたシュレク兄弟の兄・フランクから禁止薬物キシパミドが検出された一件です。

 キシパミドはドーピングを隠すためのマスキング物質として知られており、パフォーマンス向上薬ではありません。元来は高血圧治療薬/利尿剤であり、自転車ロードレース選手が摂取するものではないのです。

 ただ、検出量が 100pg/ml と基準値よりも低かったのですが、コンタドール選手が 50pg/ml の検出量で2年の出場停止処分を受けていたため、処分期間が注目されていました。

 そして、フランク・シュレク選手に下った処分は1年間の出場停止と大幅に甘いものであり、「UCI がプッシュしたい選手に配慮した結果ではないか」と大きな批判を呼ぶことになりました。

 そして、2つ目は UCI の会長が2013年9月に変わったことです。

 ランス・アームストロングがドーピングに手を染めていた時にヘイン・ヴァルブルーゲンとパット・マックエイドという2人の歴代 UCI 会長がグルになっていたことが自転車ロードレース界だったのです。この状況で「ドーピング対策はしている」と主張されても、信用するには無理があります。

 ブライアン・クックソン氏が新会長になり、徐々に腐敗が一掃が進んでいるということが現状です。自らの落ち度を隠すため、(お気に入り以外の)現役選手に問答無用の処分を下し、ドーピング対策を行っているというアピールをすることがなくなっただけでも進歩したと言えるでしょう。

 

 おそらく、スポーツライターを中心に「例え、微量であったとしてもドーピングはドーピング。厳罰に処すべき」と主張する人々もいるでしょう。その考えは理解できますが、食品に混入された禁止薬物にまで選手側の責任にすることは現実的ではありません。

 “禁止薬物が含まれていない食品である” ことを証明することは可能です。ただし、それには膨大なコストがかかるのですが、誰がそれを負担するのでしょうか。

 「選手側が負うべきだ」という人もいるかもしれませんが、居場所報告義務まで課されている現役選手からすれば割に合わないでしょう。

 選手側から「“禁止薬物が含まれていない食品” を使った料理を提供するレストランをリスト化して提示すべき」との声が上がるのは時間の問題です。ですが、そのレストランが常に“禁止薬物が含まれていない食品” を使った料理を提供している保証はあるのかという別の問題も当然浮上します。

 現地の一般住民に販売されている食品を摂取したことでドーピング陽性となった場合に処分を下すには「選手側にドーピングする意図があった」と第三者にも分かる証拠を提示する必要があるのです。そうでなければ、高額年俸を用意できないスポーツから人気がなくなり、衰退していくことになるでしょう。

 

 最後に『梅丹本舗』が責められるとするなら、社内で「ドーピング反応が出ないかチェックすべき」という声が上がっていたことに対応していなかったことでしょう。

 この点については、その意見を受け入れないという決断をした社員の責任は問われて当然です。

 「昔から良いと言われている伝統的な食品はセーフだろう」という安易な考えがあったのかも知れません。ですが、漢方薬などは自然の中にある薬草を使って効果を出しているのですから注意が必要です。

 漢方薬が自然由来成分でできているなら、ドーピングは「その中から効果がある物質の化学式を特定し、有効成分だけを濃縮して創生された物を摂取している」のだと言う認識を持っておくべきだったと言えるのではないでしょうか。