災害時にITを活用した救援・支援物資の円滑な配送に必要不可欠なこと

 熊本県や大分県で甚大な被害が発生した地震災害で、地元行政の集積拠点がパンク状態となり、配送に滞りが生じたことが問題となっています。

 この問題をIT技術(特にクラウドと呼ばれる技術)を活用することで、配送状況の偏りや滞りが解消されると主張する声も一部では存在しますが、完璧な解決策という訳ではありません。ITそのものが抱える問題もあるため、他の方法と上手く組み合わせることが重要になります。

 

 大手通販サイト『アマゾン』を利用した経験を持つ人々からすれば、“ほしい物リスト” のようなシステムを行政も取り入れれば、救援・支援物資を待つ人々に迅速に届けられると感じているでしょう。

 ですが、災害時には「通常の輸送形態が使えない」という問題が発生するリスクがあるのです。

画像:アマゾンの配送手順

 アマゾンで商品を購入した際、次のような主要プロセスを経て手元に送り届けられます。

  1. amazon のサイト上で商品を購入する
  2. amazon 社の自社倉庫が商品発注情報を受け取る
  3. 宅配・配送業者が発注者の指定した住所に商品を届ける

 通常であれば、この配送方法で滞りなく送り届けられるでしょう。しかし、災害時の場合は一般の宅配・配送業社が送り届けることができないケースが発生する可能性と隣り合わせなのです。

 

 ただ、ITによる物流管理のメリットがない訳ではありません。メリットの1つは「基幹システムを被災地に設置する必要がないこと」です。

 例えば、『日本政府・災害ポータルサイト』を設置/運営することで物資の輸送状況などを “可視化” することができますし、下記のような恩恵を受けることも可能になります。

  • 基幹システムをクラウド化することで、ハード面の被災を回避できる
  • 被災自治体の職員が物流体制をコントロールする手間を省ける
    • 地域ごとの防災備蓄センターからの発送状況
    • 指定避難所ごとのニーズ、および配送状況
  • 自衛隊による救援活動の進捗度合い
  • インフラ(電気・ガス・水道)の使用可否エリアの可視化
  • コンビニ、ガソリンスタンドの営業情報
  • 物資配給の予定場所/時間/量についての案内
  • 市町村ごとの災害ボランティア派遣希望人数の把握

 

 10万人前後の人々が求める物資を滞りなく配送できるのは大手物流会社で配送や仕分けの実務を行っている人々だけに限定されるでしょう。その業務をまったく経験のない地方自治体の職員にアサインすれば、パンクして当然です。

 慣れない業務負担を軽減できる可能性を持った『日本政府・災害ポータルサイト』ですが、解決しなければならない課題があることも事実です。課題となるであろう主な問題点とその解決案には以下のものがあります。

 

◆ 被災でポータルにアクセスできないリスク


 停電などにより、被災地から肝心のポータルサイトにアクセスできないリスクは確かに存在します。このリスクについてはインターネット回線、電話回線、ファックス回線など複数の情報伝達経路を用意しておくことで軽減することが可能です。

 どういう状況であるかを取りまとめる役割を被災地でやらなければならない義務はありません。むしろ、情報を集め続け、30分か1時間おきに現状をチェックすることで全容が把握できる状況になっている体制の方が望ましいと思われるからです。

 

◆ 被災情報をアップデート(=更新)する責任者


 被災情報をアップデートする責任は被災した地方自治体が負うことが大前提です。

 指定避難所でのニーズや要望を『日本政府・災害ポータルサイト』に反映できる権限を持つのは被災した自治体の職員だけという形に限定しておかないと、おかしな NGO や NPO 団体が “被災者様” と結託して私利私欲を肥やす温床になるからです。

 また、ポータルサイトから確認できる情報についても、「自治体発表」「マスコミ調べ」「一般投稿」という3項目でフィルターをかけられるようにしておく必要があります。これには一部の少数派が主張するニーズに足を引っ張られないための予防策の意味も含まれています。

 “哀れで同情すべき被災者・避難者” を紹介することは被災地以外の人々に対して感情的に訴える役割は果たすでしょう。ですが、被災した人々が求めている情報ではないことは明らかです。

 

◆ 一般からの支援物資提供の受け付け方法


 被災した方々が必要とする支援物資を送りたいと思う人々もいらっしゃるでしょう。称賛されるべき姿勢ですが、ミスマッチは避ける必要があります。

 したがって、『日本政府・災害ポータルサイト』に掲載された要望リストに合致する物資をポータルサイト経由で送る必要が生じます。

 友人・知人に送るなどのケースでは個人的な配送に制限を設ける必要性はありません。しかし、(顔見知りではない)被災した人を支援するという目的であれば、支援が費やした手間と時間が無駄にならないようマッチングを重視しなければならないことを啓発しておく必要があると言えるでしょう。

 

◆ 『日本政府・災害ポータルサイト』経由で支援し続ける期間


 災害支援で難しいのは発生からの時間経過に応じて、被災地でのニーズが徐々に変化していくということです。

 ポータルサイトを設置・運営することで、変わりゆくニースや要望は可視化され、支援のミスマッチが生じ続ける可能性は従来方針よりも下げることができるでしょう。しかし、「いつまでポータルサイトを運営するのか」という問題が生じることも事実です。

 災害発生から1週間以内では人命救助、インフラ復旧、物流経路の確保といったことが優先事項であり、支援物資についても栄養面は後回しになります。

 ですが、1週間が経過し、徐々に落ち着きが出てくると「栄養面に配慮が欲しい」「女性・子どもなど “災害弱者” への配慮が欲しい」というような細かいニーズがクローズアップされるようになる傾向にあります。

 この点については政府からの支援は災害発生から2週間前後を目安に徐々に比率を下げていくべきでしょう。政府がすべきことは災害復興住宅を期間限定で設置することであり、“被災者様” をのさばらせることではありません。

 少なくとも、「被災者のニーズ・要望には対処するが、必要な対価は支払ってもらう」という姿勢を表明する必要があります。

 

 災害対応で動きが鈍いのはメディアが「被災者が辛い思いをしているのだから、自粛すべき」という間違った価値観を繰り返し報じ、それを真に受けた一部がクレーマーと化すことが原因の1つです。

 補給の重要性は第二次世界大戦の教訓の1つであるはずなのですが、感傷的な反省に浸っているだけのマスコミには一生理解することはできないでしょう。また、クレームを入れることで復興の邪魔をしているという認識がないことも致命的です。

 マスコミは災害報道に熱心な理由は “金儲け” が理由であり、報道のためではありません。破壊された街並みや建物が崩壊する瞬間はインパクトがあるため、世界中に映像を売ることができるからです。「ちゃんと、取材ルールを守って行動している」と主張する声も一部のメディア関係者からは出ていますが、当然のことで擁護になっていません。

 ドーピングが問題視されているスポーツで「ちゃんとルールを守っている」と一部の選手が発言しても意味がないことと同じです。ドーピング検査がきちんと機能して、初めて意味を持つ言葉になるからです。

 

 メディアが信頼を回復させるには、「震災から〇年、被災地はどうなったか」という番組を放送するのではなく、「震災当時の対応はどうだったのか、それがどのように改善されたのか、現在の対応方法は有効なのか」を検証する番組を放送することでしょう。

 被災ドキュメンタリーはストーリー展開が同じであり、飽きられるからです。悲しみを呼び起こすことに主眼が置かれた似たような物語を繰り返し放送しても数字は取れないことは明らかになっていますので製作する必要性も失われつつあります。

 「脚色するしか脳のないマスコミは災害復興の現場から締め出せ」という声が出てくることは時間の問題でしょう。そして、マスコミが担っていた役割をITに基づくネットが担う時代がやって来ることを待ち望んでいる人々も多くいるのではないでしょうか。