シリア内戦を煽ったのはオバマであり、その事実を誤魔化してはいけない

 シリアからの難民に端を発した “難民問題” がヨーロッパ諸国を大きく揺るがしています。

 その解決に向け、難民の最大経由地であるトルコが以前から求めてきた「安全地帯」をシリア国内に設置する流れが形成されつつあるのですが、アメリカのオバマ大統領が現実的には困難との見方を示していると NHK が報じています。

 

 アメリカのオバマ大統領は、訪問先のドイツでメルケル首相と会談し、シリアで戦闘が激化し、停戦の枠組みが崩壊することに強い懸念を示し、内戦の終結に向けて政権移行を進める必要性を強調しました。

 (中略)

 一方でオバマ大統領は、シリア国内に住民を保護する「安全地帯」を設ける案を、シリアの隣国トルコが主張していることについては、「どうやって実行するのか、誰がシリアに多くの地上部隊を送り込むのかが課題だ」と述べ、実現は困難だという認識を示しました。

 

 確かに、地上部隊を出すことに難色を示す国は多いでしょう。なぜなら、それによって得られる利益と、作戦遂行時に生じる損失を比較すると、ハイリスク・ローリターンであると考えられるからです。

 ですが、シリア騒乱を引き起こした立場にある国は地上部隊を派遣しなければならない責務を負っていることもまた事実です。

 

 シリア情勢が不安定になったことは “アラブの春” と呼ばれる民主化運動の波がシリアにも到達した頃からでした。

 アサド政権はロシアやイランという西側諸国と対立関係にある国々と友好関係にあり、オバマ大統領は「独裁者アサドは去らなければならない」と人道主義者の主張をそのままメディアの前で語り、シリア反政府勢力に肩入れしました。

 ところが、饒舌なだけで外交能力に疑問符が付くオバマ政権は数々のミスを連発します。

 アサド政権が崩壊せず、戦況が泥沼化する兆しを察すると対応をトルコに丸投げし、沈黙を貫き始めます。権力の空白地帯が生じた隙にISが台頭すると、トルコと敵対関係にあるクルド人勢力を支援し、スンニ派の湾岸諸国と緊張関係にあるイランにも協力を要請するなど、アメリカの既存同盟国との関係を悪化させたのです。

 これだけの様々な外交の失敗をしておきならが、自分たちは責任を取る気はないという主張はあり得ないでしょう。少なくとも、混乱を引き起こしたアメリカは地上部隊を出さなければならない責任を負っている国の1つなのです。

 

 次に、シリアに「安全地帯」が設置された場合に地上部隊を出す動機を持つ国が存在します。それは設置を希望するトルコと難民問題に悩まされているヨーロッパ諸国です。なぜなら、次のような恩恵を受けることができる可能性があるからです。

  • 「安全地帯」が存在することで、シリアからの越境難民を制限できる
  • トルコ国内にいるシリア難民をシリア国内の「安全地帯」に移送が可能になる
    → トルコ政府の財政負担が軽減
  • EU域内では安全を求める “シリア難民” の絶対数が減ることを意味するため、自称・難民を祖国に強制送還が容易になる
  • 難民危機が収束に向かうため、“極右” の台頭を抑制できる

 「ヨーロッパ全体が右傾化している」とリベラル界隈が嘆く発端となったのはシリア難民を含む、大量の自称・難民が大量に流れ込んだことです。その結果、自国民にしわ寄せをしてまで難民支援を行った政権が有権者から NO を選挙を通して突きつけられただけのことなのです。

 アメリカがシリアからの難民問題で政権が窮地に立たされることはないでしょう。ですが、この問題を作り出したことにオバマ政権の外交方針が大きく関与しているのです。その後始末に向けた道筋を立てておくことをレガシーとすべきではないでしょうか。