7兆円で可能という教育・医療費の「マツコ案」が見落としている問題点

 タレントのマツコ・デラックスさんがテレビでコメントした「子どもにかかるお金は国が面倒を見ますよ」というプランを試算すると、7兆円で教育・医療費が無料にできると週刊朝日が主張しています。

 京都大学の柴田悠准教授が試算した内容を理由に、政府の対応を求めているのでしょう。ですが、実際には7兆円で済む問題ではないのです。

 

 柴田准教授が試算した子どもの教育・医療費を無料にするために必要とされる財政負担額の内訳は以下のとおりです。

  • 保育クーポンをすべての子供に配布:2.1兆円
  • 保育士の年収引き上げ+園の新設:1.5兆円
  • 小学校教育費無償化:0.7兆円 *
  • 中学校教育費無償化:0.6兆円 *
  • 高校教育費無償化:0.9兆円 *
  • 大学教育費無償化:1.6兆円 *

 

 医療費も含めた総額7.8兆円でできると記事では言及されています。ただし、この数値は単年度ではなく、毎年8兆円近くを費やすだけのリターンを得られるかが評価ポイントと言えるでしょう。

 しかし、最大の問題点は「7兆円では済まない」というところにあります。

 

 試算した数値はいずれも現状の子どもの数をベースに算出したものだからです。

 子どもの数が増えると、保育クーポンとして配布される予算額が大きくなります。〔非正規雇用の年間保育額〕×〔子どもの数〕=〔保育クーポンとしての予算額〕という式が成り立つ訳ですから、支出増が余儀なくされるでしょう。

 また、それに乗じて(年収額が引き上げられた)保育士も確保しなければなりません。保育園の新規開設も必要となるでしょう。この分野でも予算規模が膨らむ要素が待ち受けているのです。

 そして、最大の問題は教育費や医療費を無料にするために算出した方法です。進学率は現状のままを前提にすると記事ではさりげなく断りを入れていますが、学費を無料にすれば、単純に学生の数が増えます。

 それに乗じて、コストは増えるのですから柴田准教授が算出した試算値は教育費無料化が始まると同時に大きなズレが発生することになるでしょう。

 

 教育費が無償化された恩恵を受けるのは学生ではありません。“少子化” によって経営状態が悪化している学校関係者が最も恩恵を受けるのです。

 つまり、柴田准教授は教育費無償化による恩恵を受ける利害関係者なのです。

 良い大学を出たからという理由だけで、一流企業に就職できたり、公務員になれる訳ではありません。確率としては高いのですが、実際には学校で学んだことをどれだけ活かせるか、ポテンシャルを持っているかが分かれ目になるでしょう。

 しかし、学校経営は学生数を確保することが最優先課題なのです。留学生であれ、勉強する気のない生徒であれ、学生数さえ確保しておけば、教職員の雇用は守られるのです。

 大学などで成果を出せていない教員のリッチな生活を維持するために、「子どもたちに無償の教育を」と訴えるのは間違っています。そう考える教職員がいるなら、社会貢献活動の一環として、無償講座を開講し、単位認定をするべきなのではないでしょうか。