命は金で買える、国民皆保険という制度を使い続けられれば

 昔は「命は金で買うことはできない」と言われていましたが、医療技術の進歩によって前提条件が大きく崩れることとなりました。

 日本では “国民皆保険” という制度に基づき、誰もが最高水準の医療を受けることが可能になっているのですが、膨大な医療費が財政を圧迫することが問題となっています。そのような状況下で、超高額な『夢の新薬』の是非がクローズアップされています。

 

 土居丈朗教授(慶應義塾大学経済学部)は『東洋経済』に掲載した記事の中で、「高額薬剤の使用」と「費用負担のあり方」の議論を先延ばしにすることはできない時期に来ていると警鐘を鳴らしています。

 例として挙げられたのは、オプジーボと呼ばれるがん治療薬です。

  • オプジーボは日本で開発された画期的な免疫療法薬
  • 悪性黒色腫のほか肺などのがんへの適応拡大も期待
    → “夢の新薬” として期待されている
  • 1人の患者(体重60キロ)に使用すると、年3500万円かかる
  • 日本の肺がん患者数は推定13万人(2015年)
    • 仮に5万人の患者にオプシーボを1年間使用すると、薬代は1兆7500億円
    • 患者1人の負担額は高額療養費制度による月額8万円程度
      → 残りは医療保険料と税金から支出

 

 日本には「高額療養費制度」が存在し、保険適用範囲内であれば、どれだか高額な医療費を要したとしても患者の窓口負担には上限が設けられています。そのため、アメリカで起きる医療費負担による自己破産というケースが発生することはないのです。

 ですが、問題がない訳ではありません。患者が負担すべき医療費を国民全体が強制的に分担させられているのですから、健康で働き、納税を行っている現役世代ほど割に合わない制度となっているからです。

 

 建前上は「“命の値段” を天秤にかけることはできない」と主張するでしょう。しかし、現実には医療費の負担を他の国民に支払ってもらっている訳ですから、費用対効果を無視することは論外です。

 例えば、生活保護を受給している世帯では医療費は無料です。この制度を悪用し、服用量以上の医薬品を入手・売却することで “小遣い稼ぎ” をしている不届き者も実際に存在している訳ですから、医療費の聖域化は絶対に許されないことと言わなければなりません。

 現実に言えば、“命の値段” を概算することは可能です。事件・事故に巻き込まれた人やその家族が民事訴訟での損害請求額とおおよそ比例関係にあると考えられるからです。

 当然、現在価値の高い人や、将来的に価値が上がることが想定される人が「高額療養費制度」を利用することに批判は集まらないでしょう。また、真面目に働き、納税義務を果たしていた年配者や年金受給者についても同様です。

 ですが、生活保護受給世帯主などに代表される “フリーライダー” が「高額療養費制度」をフル活用できる現状制度には今後さらに批判が強まることになると思われます。

 

 現状でもバカバカしいほどの保険料を現役世代は源泉徴収されている訳ですから、増税を進めるほど経済活動は急速に縮小していくことになります。

 「老人はいたわり、配慮すべき」と地震報道などでメディアは盛んに伝えていますが、そうは思わない人が少なからずいるでしょう。彼らを無理に延命させようとすればするほど、財政は圧迫されるのです。

 年金受給者の仲間入りした人々に対する終末医療についても真剣に議論を行い、結論を出してた上で実行しなければならない時期に来ているのではないでしょうか。