司法が現役世代の労働者にさらなる受難を強いる

 朝日新聞によりますと、「同じ業務で定年後の再雇用で賃金を下げることは違法」との判決が東京地裁であったということです。

 原告にとっては当然と言える判決なのでしょうが、他の労働者にとっては非常にマイナス面が大きい判決となりました。この判決で救われるのは定年を間近に迎えたごく一部だけに限定されると言えるでしょう。

 

 定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう勤務先の横浜市の運送会社に求めた訴訟の判決が13日、東京地裁であった。佐々木宗啓裁判長は「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に反する」と認定。定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう同社に命じた。

 

 日本は年功序列の賃金制度が深く根付いていた企業文化が一般的なのですが、バブル経済が崩壊した後はそれが大きな足かせとなっています。

 まず、日本では正社員の立場を手に入れさえすれば、滅多なことがない限り、職を失うことはありません。仮に解雇されたとしても、“解雇4要件” のすべてに合致していなければ、裁判に訴えることで解雇自体が取り消される判例が存在するため、非常に守られた対象となっているのです。

  1. 人員整理の必要性:人員整理を行わなければならない経営上の理由が存在するか
  2. 解雇回避努力義務の履行:希望退職者を募る、役員報酬をカットするなど解雇を回避するためのあらゆる努力を行っているか
  3. 被解雇者選定の合理性:解雇対象者の選定が主観に基づく決定ではなく、合理的かつ公平であるか
  4. 解雇手続の妥当性:整理解雇について納得を得るための努力を尽くしているか

 これらから読み取れるように、日本では会社の経営状態が手遅れになって、初めて解雇が可能になるという方針を司法から強要されています。

 しかも、年功序列で上がった給料を下げることも労働契約法で制約されている訳ですから、コストパフォーマンスの悪い年配の従業員が経営を圧迫しているという実態があります。

 

 そうなると、企業側は「全従業員の昇給を凍結する」という経営判断を下します。これは新聞などメディアが報じていないだけで、リーマンショックによる影響などの “もっともらしい理由” を根拠に昇給・昇進を止めている大手企業は多数存在することでしょう。

 そして、割を食らうのは若手・中堅社員です。

 彼らは給与水準が低く抑えられています。ところが、定年に近づきつつある同じ役職の社員と比べると倍近く開いた給与水準が現実には存在するのですから、不満を抱いて当然のことです。

 これまでは「役立たずで高給取りの年配社員がいなくなれば、待遇は少しは改善されるかも」という期待がありましたが、東京地裁の判決により、その期待もはかなく消え去りました。

 もし、彼らが定年後の再雇用を希望すれば、社員時代と同じ年収が保証されるのです。これでは若手・中堅社員は報われませんし、昇給の可能性は完全に潰えたと言えるでしょう。また、中小企業であれば、定年後の再雇用そのものを見送ること決定することへの強い後押しとなります。

 

 地裁での判決であり、確定判決ではありませんが、変に弱者に寄り添う姿勢をアピールする司法判断は有害なものでしかありません。

 下手に正社員雇用をすると、経営不振の初期段階でも “解雇4要件” が原因で手遅れになることが十分に想定されるのです。そのため、正社員の数を極力減らそうとすることは企業経営の絶対要件となっているのです。

 「非正規社員の割合が増えていることは問題だ」との声が一部のリベラル派から出ていますが、今後も増え続けることでしょう。なぜなら、現状の法律では不良債権と化した正社員を損切りする手立てが存在しないからです。

 手立てがないのであれば、超厳選採用の傾向が色濃くなり、幹部社員候補生以外は派遣社員という形で単純作業を行う雇用形態で落ち着くことになるのではないでしょうか。