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ゴルフの五輪競技復活に選手たちが乗り気でないのは当然である

 リオ五輪からゴルフが116年ぶりに正式種目として復活します。ゴルフ界は大歓迎の意向を示していますが、出場する肝心の選手たちはそれほど重要視していない傾向を見て取ることができます。

 トップレベルの選手たちがあまりオリンピックの乗り気でない理由はメリットを享受することができないことが大きな理由になっているからです。

 

 ゴルフジャーナリストとして活動する武川玲子氏は『スポルティーバ』のサイトに「五輪ゴルフ復活の意義」を記した以下のようなコラムを寄稿しています。

 ここでもう一度考えたいのは、ゴルフが五輪競技になる意義だ。マスターズ委員会、全米ゴルフ協会、R&A(全英ゴルフ協会)、全米プロゴルフ協会、PGAツアー、そして世界中のツアーと団体が、なぜ一丸となって五輪競技復活を目指したのか。すべては、これからのゴルフの発展のためだ。

 五輪競技になれば、国から補助金が出るし、選手の育成にもつながる。さらに、ゴルフがスポーツとして知られていない国や地域でも、たくさんの人の目に触れることになるだろう。そうすれば、人口が10億人を超える中国やインドなどで、ゴルフ人口の増加につながるかもしれない。

 

 武川氏の視点で抜け落ちていることは「五輪に出場する現役選手が得るリターン」です。世界トップレベルのプロゴルファーが五輪出場によって得られる恩恵が不明瞭なままでは出場に乗り気になる選手が限定的になるのは当然と言えるでしょう。

 

 まず、ゴルフを五輪競技に猛プッシュしたのはツアー主催者です。なぜなら、彼らはゴルフが五輪競技になった段階でリターンを得られる立場にいるからです。

 “ゴルフの発展のため” というお題目を掲げていますが、五輪競技としての復活をアピールしたツアー主催者や団体はいずれも「世界一」の肩書きを持っているのです。

 つまり、彼らは『世界一のゴルフツアー』や『世界一のゴルフ大会』の放映権を世界中に販売することで、早い段階からオリンピックの恩恵を得ることができるのです。オリンピックでメダルを取るため、国策として強化する国も現実に存在します。

 それらの国ではゴルフ用具の売上高がアップしますし、メダルを獲得するには世界トップクラスのレベルを研究・分析することが不可欠です。したがって、オイシイ思いをするのは主催者やメーカーであり、選手サイドが五輪に出場する意義を見つけることが難しいことが実状となっているのです。

 

 次に、ゴルフの五輪種目復活は衰退し続けているゴルフ競技の延命策に過ぎないということです。

 男子ツアーは4日間(女子ツアーは3日間)の日程で競技が行われます。また、他のスポーツと比べ、多額の競技費用が必要であることから、先進国では “ゴルフ離れ” が深刻な問題として捉えられているのです。

 確かに、ゴルフが普及していない国でゴルフ人気が高まれば、一時しのぎにはなるでしょう。

 しかし、ゴルフ先進国で表面化した問題への取り組みが本格化されていないことが実状なのです。仮に中国やインドでゴルフ人気が巻き起こったとしても、それらの国々で “ゴルフ離れ” が生じることは時間の問題です。

 「ゴルフ途上国が発展すれば、ゴルフ界も何とかなる」という発想は、単なる問題の先送りです。しかも、先送りできるかの保証も曖昧なままなのですから、危険なギャンブルをしているだけと指摘されることになるでしょう。

 

 日本ゴルフ協会も「2000万人の潜在需要層を掘り起こす」という新たな提案書(PDF)を公式サイト上に掲載していますが、かなり希望的観測に満ち溢れた内容となっています。

 そもそも、日本でのゴルフピークはバブル期の「ゴルフ場の会員権が一種のステータスだった」時代のことです。

 競技人口が増えなくとも、ゴルフ場経営に困ることはなかったでしょう。ですが、経済的な事情も加わり、自動車を持たない若手・中堅世代の割合が増えると、新規顧客を獲得してこなかったツケを払うこととなった。ただそれだけのことなのです。

 その結果として、ゴルフ場として運営するよりも、太陽光パネルを設置した方が儲かるという本末転倒なことが起きているのです。

 需要を掘り起こそうにも「プロとして生計を立てられる選手の割合、ツアープロの平均収入額、トップレベル選手の獲得賞金額」をどれだけガラス張りにできるかが鍵となります。様々な情報が溢れている中で、悲惨なプロ生活を隠し切れるほどネット社会は甘くはありません。

 プラスとマイナスの両面が見える状況になっていなければ、親世代が子供にゴルフをさせようとは思わないでしょう。また、接待でのゴルフについてもコンプライアンスの問題から敬遠されるようになっているのですから、市場規模は縮小して当然です。

 レジャーや余暇を楽しむスポーツについては格差をなくす政策を訴える政党より、好きな趣味に自由に使える所得を増やす政策を訴える政党を支援することがゴルフ界には求めらていることと言えるでしょう。

 

 最後になりましたが、トップゴルファーを五輪出場に惹きつける方法がない訳ではありません。例えば、サッカーW杯チャンピオンのように、王者にだけ付けることが許されたエンブレムを作ることも1つのアイデアです。

 ゴルフ種目で金メダルをとった男女各1選手だけがそのエンブレムを次回のオリンピックまで4年間付けることが許されるように規則を変更するのです。

 そうすることで、中継でそのエンブレムがクローズアップされる頻度が高まります。その結果、(エンブレムを映し出すついでに)選手が契約しているスポンサーも露出することになりますので、スポンサー料の増額を勝ち取ることが期待できるでしょう。

 オリンピックでの賞金がダメなら、その後の4年間で1大会分の賞金額を上回る仕掛けを作り出せば済む話なのです。

 

 また、先進国で顕著になっている “ゴルフ離れ” についても、自転車ロードレースを例に習い、クリテリウム方式の採用を本格的に検討・実施する価値は存在します。現在は賞金額でシード枠が決まるのではなく、FedEx ポイントによって決定するのです。

 4日間のツアーではなく、1日もしくは半日規模の大会を開催し、FedEx ポイントを傾斜配分することで、“金持ちや成金のする球技” というマイナスイメージを払拭することが狙いです。

 「その程度の案なら、すでに検討して、ボツになってるんだよ」と言うなら、ボツにした理由も公開しておくべきでしょう。アイデアは叩き台として、世間に公表しておくことに価値があるからです。

 肝心の選手たちを置いてきぼりにした改革案をどれだけ提示したとしても、協力的になることはないでしょう。その改革を実行することで、実際の選手たちにどのぐらいのメリットがあるのかを明確に提示できない限り、その途中で頓挫することになると言えるのではないでしょうか。