安倍政権はG7伊勢志摩サミットを上手く活用できた

 現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問したバラク・オバマ大統領の話題で隠れがちになっていますが、G7伊勢志摩サミットで安倍政権が残した成果を確認しておく必要があるでしょう。

 結論としては1対1の外交とは異なり、参加国の意向を上手く反映させ、折り合いを付けることができた合意内容になったと言うことができそうです。

 

1:財政出動の是非

 夏に参議院選挙がある日本は安倍政権が財政出動を正当化する理由を求めている様子だと読み取れます。「リーマンショックに該当するほどの経済の落ち込みがあれば、消費税の増税延期」との発言をしていますので、増税を延期するための口実を手に入れたと言えるでしょう。

 ただし、問題がない訳ではありません。経済評論家などからは「世界経済は落ち込んでいない」との声があり、野党からは「アベノミクスの失敗のせいだ」との批判が出ています。

 しかし、リーマンショックの前兆を見抜けなかった経済評論家や、アベノミクスの対案を何も出さない野党にこれからの日本を任せようと考える有権者はいないと思われます。少なくとも、責任の所在を明確にせず、安全地帯から叫ぶような人たちが信用されることはないでしょう。

 

2:租税回避への対応

 『パナマ文書問題』で世間的に大きな注目を集めた租税回避問題についても、OECD(経済協力開発機構)が取り組んでいる国際的なルール作りを率先して主導していくことで合意しました。

 脱税であれば、各国当局が取り締まることが可能です。しかし、租税回避の多くが合法的な行為を組み合わせる形となっているため、世界共通ルールを導入することが対応には不可欠となっているのです。

 

 ウォール街(ニューヨーク)やシティ(ロンドン)の金融ネットワークが “蜘蛛の巣” の中心に限りなく近い場所にあると見られており、ここにどれだけ切り込むことができるかが鍵になります。

 日本も反社会的組織やテロ組織にマネーロンダリングという形で資金が流れることを防ぐ責務が存在します。おそらく、マイナンバーと金融口座情報がリンクされ、振り込め詐欺などでの口座が悪用される手口に少しは歯止めがかかることになるでしょう。

 世間一般では実感度の低いテーマですが、国家という広い観点で見ると、対策に動き出したことは重要なことだと評価できるはずです。

 

3:武力や威圧を背景にした主張を通そうとすることへの批判

 これは東シナ海や南シナ海での中国の振る舞いや、ウクライナ情勢をめぐるロシアの行為を批判する内容のものです。

 中国の海洋進出については名指しこそ避ける形となりましたが、対象の海域を明記することで強い懸念を示す形となっています。ブレーキをかける様子のない中国が状況を既成事実化しようとした際に具体的な対応が取れるかにG7のメンツがかかっていると言えるでしょう。

 ロシアについてはドンバスなどウクライナ東部での騒乱より、クリミア併合を問題視するEU側の主張に配慮した形となっています。“住民投票の結果” が尊重されるのであれば、セルビアからのコソボ独立と同様にロシアによるクリミア併合を容認しなければならなくなるからです。

 また、テロや過激主義に対しても、強く非難した上で、暴力や憎悪の連鎖を断つため、包括的な対話を促進することで合意しています。実際には、テロや過激主義の温床を生み出さないための予防策と温床を解消する対処策を分けて考え、有効な対策を実施することがそれぞれの国の実状に合わせて求められていると言えるでしょう。

 

4:ダンピングへの大きな懸念

 経済の急成長により “鉄の爆食” が中国で起きていたのですが、成長が鈍ったことで鉄鋼の供給過剰が問題として浮かび上がることとなりました。

 中国で生産しすぎた鉄鋼製品が安価な価格で世界市場へと流れ込むこととなり、各国の産業に悪影響が及んでいることが懸念されているのです。企業が利益を確保した価格で市場戦略を構築しているのであれば問題とはなりにくいのですが、国営企業であったり、政府が補助金を出す形で実質的に支援していることに懸念が示される形となりました。

 鉄鋼業界は再編が進んでいるのですが、製鉄所で働く労働者数は大きく、周辺産業への波及も考えると、どの国にとっても大きな失業問題に直結するナーバスなテーマなのです。

 自国の失業率が悪化することを容認する政府はまず存在しないでしょう。そのため、失業率悪化の原因を作っている国や地域に対して厳しい姿勢を採ることになるのです。

 

 今回のG7については「ロシアと中国の横柄な振る舞い」を批判する形の首脳宣言を出す形で終えることとなり、予定調和に近いものがあると言えるでしょう。サミットでの会談内容を実際の政策に落とし込むことができるかが課題であることは改めて言及するまでもないことです。

 中国はG7の会合内容を否定するコメントを発していましたが、仮に出席していれば、それこそG7の存在意義が薄れていたはずです。

 中国共産党のトップが『パナマ文書問題』で名前が取りざたされ、南シナ海を武力で奪おうし、鉄鋼製品でダンピングを行っている。ルールを平然と無視するような国家の主張に寄り添う必要はありませんし、覇権主義を承認することは民主主義国家として受け入れられるものではないと言えるでしょう。

 安倍政権が財政出動を正当化する根拠に「リーマンショック」だけを考えていたようですが、実際には「中国のダンピング」もカードになりました。ダンピングが鉄鋼製品だけとは限らず、(農作物など)他の製品にも波及するリスクがあると範囲を広げることができるからです。

 議長国として、今後の政権運営に活用できるカードを複数入手することができたと評価できるのではないでしょうか。