EU残留支持派のイギリス下院議員が銃撃され死亡、“弔い合戦” にしたいメディアは自重すべき

 EUから離脱の是非を問う国民投票まで1週間を切ったイギリスで、下院議員が銃で撃たれ、死亡するという事件が発生したとNHKが伝えています。

 時期が時期だけに、事件が与える波紋が大きくなることが考えられますし、利用しようと考える者たちも出現するものと思われます。

 

 EU=ヨーロッパ連合からの離脱の賛否を問う国民投票が行われるイギリスで、16日、EUへの残留を呼びかけていた女性の下院議員が銃で撃たれるなどして死亡し、警察は、現場近くで拘束した男から事情を聴いて動機などを調べています。事件を受けて、国民投票で残留を支持する団体と離脱を支持する団体はともに、運動をいったん中断する考えを明らかにし、国民投票に向けた運動にも影響が出ています。

 

 銃撃されたのは野党・労働党のジョー・コックス議員で、EU残留を支持する立場を表明していました。

 52歳の男が現場近くで拘束されたとのことですが、事件の背景や動機の解明には少し時間を要することになるでしょう。少なくとも、被害者となったコックス議員を神聖視し、彼女が主張していた「EU残留」が正しいと決めつけ、“弔いキャンペーン” を展開することは避けるべきです。

 

 それはヨーロッパを取り巻く環境がメディアが予想する以上に急激な変化を見せているからです。イギリスは保守党と労働党による二大政党制の国ですが、どちらの政党にも共感できない有権者層が増えているのです。

  • 保守党:中道右派(保守)、企業・財界など富裕層が基盤
  • 労働党:中道左派(リベラル)、労働者などが基盤

 コックス議員が所属する労働党は与党・保守党と比較した場合、政策は左派(リベラル)よりで、支持基盤は労働者の色合いが強い傾向にあります。

 キャメロン首相(保守党)が富裕層出身のエリートであることからも、労働党の立ち位置は間違ってはいないでしょう。支持基盤である労働者層への手当を厚くすることで勢力拡大を狙えると考えられるからです。

 ところが、リベラル派の主張に含まれていた “毒” による中毒症状がヨーロッパ中で発生していることが表面化してきたのです。

 

 リベラル派はすべての人を支援する博愛主義的な考えを主張します。この「すべての人」を保護の対象にしようとする政治姿勢が地元有権者からの反感を買う大きな理由となります。

 移民や自称・難民であっても、“すべての人” というカテゴリーに属します。つまり、リベラル派の定義では彼らも保護の対象である訳ですから、福祉予算を始めとする様々な分野で支援を受けることを意味しているのです。

 リベラル派の積極的な移民・難民受け入れ策によるマイナス面は、左派の支持基盤である労働者層(とその家族)を直撃します。公的支援の規模が削減され、生活が現状よりも苦しくなることが現実的に考えられるのですから、有権者離れを引き起こす原因となるでしょう。

 「財政再建のために公的支援の規模が見直される」というのであれば、限定的との期待感を持つことはできます。しかし、その理由が「新たにやって来た移民・難民のため」であれば、有権者の怒りを買うことは明らかです。

 

 移民一世、難民一世のために政府の予算を割り当てようとする中道左派が軒並み議席を落とすことは必然のことでしょう。

 リベラル派に票を投じていた有権者は「自分たちの生活を守る」と主張する政党へと鞍替えすることになります。それらの政党はいずれもメディアが “極右政党” と名指しし、バッシングしているのですが、その程度では有権者の生活を軽視する既存の中道左派政党に票を投じる理由にはなり得ないものなのです。

 「キレイゴトを主張し、諸外国から称賛されることに酔いしれてきたリベラル派が自らの足元を支えてきた地元有権者から見捨てられつつある」という事態が進行しているだけと言えるでしょう。

 

 メディアが「コックス議員の弔い合戦」と位置付け、報道するのは勝手ですが、これはブーメランになる可能性があります。

 自称・難民や移民が大量流入したドイツでは万単位の移民による犯罪が発生していることは明かされました。EU残留を決断した場合に、1人のイギリス人が移民・難民によってコックス議員と同じ運命をたどる可能性は大いに存在します。

 しかし、そのような事件が起きた場合、全国区で被害者に寄り添うようなことが起きるでしょうか。メディアにも取り上げられず、事件そのものがなかったことになる確率の方が高いでしょう。

 議員1名の命で移民・難民が免罪符を手に入れることが可能となるなら、世界各地で模倣犯が出現することになるでしょう。審査をすべてパスできるようになるのですから、それだけの見返りは十分に存在します。

 お花畑リベラル派を排除することができるか。イギリスの有権者が出す結論に注目です。