年金の運用損益を単年度で見ることはナンセンス

 公的年金の運用で「2015年度の成績は5兆円を超える損失だ」と朝日新聞などのメディアが批判的な報道を行っています。しかし、年金は長期運用が求められる性質であり、単年度の成績だけで批判することほどナンセンスなことはないのです。

 

 2015年度の公的年金積立金の運用成績は、5兆円を超える損失となることが確定した。株安が影響したもので、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が30日の運用委員会で厚生労働省に報告した。だが、GPIFが公表するのは参院選後の7月29日で、野党は「損失隠しだ」と批判を強めている。

 

 GPIFに対する評価を行うのであれば、長期的な視点を持つ必要があります。また、単年度の成績だけではなく、長期間の運用結果である “累積収益額” がどのぐらいであるかを確認しなければなりません。

 あるツイッターユーザー(@rockhound_)が累積収益額をグラフ化したものが、年金の運用成績をイメージしやすいと思われます。

画像:GPIFの年金運用累積収益額

 

 「野党から問題視する声が出ている」と報道されている “5兆円のマイナス” に該当するのは図の右端斜線部です。

 グラフからは一目瞭然ですが、自民党・第2次安倍政権が発足した時点から比較すると、今回のマイナスを入れても、運用成績は30兆円超のプラスなのです。安倍政権下での累積収益額がマイナス5兆円なら、“大損” と批判することは正しいですし、当然です。

 しかし、長期運用が求められる年金で、累積収益額は+30兆円を記録しているのです。この事実を無視して批判をする限り、市場関係者から「基礎すら分かっていない」と鼻で笑われることになるでしょう。

 年金運用を行う組織は扱う資金額が大きく、『長期運用』を前提に世界中で投資先を探しています。カルパース(CalPERS)やノルウェー政府年金基金(GPF-G)は世界屈指として有名ですが、こうした基金のホートフォリオをGPIFと比較し、運用形態を考える必要があります。

 

 カルパースやノルウェー政府年金基金との運用実績を比較すると、民主党政権時代の平成22年度と23年度の運用成績が悲惨であることが浮き彫りになっています。

画像:CalPERS, GPF-G, GPIF などの運用成績比較

 平成22年度が -0.3%、23年度が +2.3% と他の年金運用基金と差が生じています。株式の比率が低かったことで、リーマンショックのダメージは少なくて済みましたが、株安の状態が続いたため、株式からの運用益が年金の運用成績に現れなかったのです。

 「株価が高くても、庶民には何の関係もない」という “街の声” をメディアはよく取り上げていますが、実際には『年金』という点においては大きな恩恵を受けています。

 

 毎年赤字を垂れ流し、累積赤字を積み重ねてきた企業が今年度は黒字化した。多額の借金は残っているが、メディアは黒字化したことだけを大きく取り上げ、企業を持ち上げている。

 このような馬鹿げた報道をメディアは行い、野党(民進党)は批判しているのです。あまりにナンセンスです。自民党から政権を奪いたいのであれば、まっとうな政策議論を行い、有権者から信頼を得るために努力する姿勢が不可欠です。

 文句を言うだけで、楽ばかりをする政党に票を投じようと考える人はほとんどいないのではないでしょうか。