出生前検査によって中絶を選択することは理解できる

 胎児にダウン症などの病気があると確定した妊婦の 97% が人工妊娠中絶を選択していたとの調査結果が出たとNHKが報じています。

 賛否両論があるでしょうが、妊婦やそのパートナーが「生まないこと」を選んだことは理解できる人が多いのではないでしょうか。

 

 血液を分析して胎児にダウン症などの病気があるかどうか判定する新しい出生前検査を受けた妊婦は2万7000人余りに上り、病気が確定した人の97%が人工妊娠中絶をしていたことが産婦人科の医師などの調査で分かりました。一方で、ダウン症の人を対象にした調査ではおよそ8割が「幸せに思うことが多い」と答えたという調査もまとまり、専門家は「出生前検査を受ける妊婦やパートナーにダウン症の人などの実態を知ってもらうことが重要だ」と話しています。

 

 中絶を選択する大きな理由の1つはダウン症などに対する “一般的なイメージ” があるからでしょう。子育て自体が大変なことであることに加え、病気を持つ子供のケアが必須となり、負担が大きくなることが避けられないという印象があるからです。

 妊婦やパートナーが抱えていると思われる不安要素に対し、「ダウン症を持つ本人は非常に高い割合で満足のいく生活を送れている」と記事では反論しています。しかし、この主張はあまり効果的ではないと思われます。

 

 まず、調査方法ですが、5000人にアンケートを送り、回答があったのは全体の 17% にあたる852名。その8割(全体の13.6%)が「幸せに思うことが多い」と答えたのです。

 この回答率が調査結果としてふさわしい精度を有しているのかという点に1つめの疑問が残ります。選挙や世論調査などのように5割前後の回答率が必要になると言えるのではないでしょうか。

 次に「ダウン症を持つ本人が幸せに思っている」ことです。これは「子供が幸せに思うことが多い」と回答していることと同じであり、子育てをする親の意見ではありません。

 ダウン症の子供を持つ両親の8割が「幸せに思っていることが多い」とは違うのです。

 “ダウン症を持つ本人の幸せ” のために、親は具体的にどのぐらいの負担が求められるのか。この部分を明確にできなければ、一般的なイメージとして世間に広まっているダウン症への不安感を払拭することはできないでしょう。

 なぜなら、「幸せに思うことが多い」と回答したダウン症を持つ本人が平均所得以上の家庭で愛情をたっぷりと注がれ、成長したというケースも考えられるからです。今後は金銭事情など “ゲスい部分” への調査を進めることができるかが求められることになると思われます。

 

 「出生前検査を受けようかな」と考えている人はやるべきです。陽性という結果が示され、子育てに不安を感じ、中絶を選択したとしても責められることは何もありません。

 一部の界隈からは「出産すべき」や「ダウン症の子供がいても幸せになれる」との声が出ますが、所詮は保護責任すら持たない他人であることを忘れてはいけません。相談に乗ってくれたり、サポートしてくれる親切な人もいるでしょうが、そうした人が身近にいる保証はないのです。

 安易に出産することを選び、育児に疲れて、ネグレクト(=育児放棄)を行い、自分も子供も周囲も不幸になることを避けることも大事なことだと言えるのではないでしょうか。