ソフトバンクによるARMの買収、市場はネガティブな観測

 ソフトバンクが半導体開発企業ARMを約3兆円規模で買収することが発表されたことがNHKなどのニュースで報じられています。IoTは次なる成長分野として期待されていますが、ソフトバンクを取り巻く環境から “売り” が大きくなったと言えるでしょう。

 

 通信大手のソフトバンクグループは、イギリスに本社を置く世界的な半導体開発会社ARMホールディングスをおよそ3兆3000億円で買収すると18日発表しました。会社側はあらゆるモノをインターネットでつなぐIoTと呼ばれる技術を次の成長分野に位置づけており、巨額の買収額に見合う形でどこまで強化できるかが焦点となります。

 (中略)

 ソフトバンクを巡っては、中国のネット通販最大手アリババグループなど保有する株式を相次いで売却し、総額1兆8000億円の資金を確保していますが、今回、金融機関から新たに1兆円の資金を借り受けるとともに、アメリカの携帯電話会社などこれまでの相次ぐ買収で、ことし3月の時点で有利子負債はおよそ12兆円に上っています。

 

 ARMは半導体開発会社であり、製造会社ではないという特徴があります。研究・開発による特許が収益源になっており、半導体業界で知財に特化した企業と言えるでしょう。

 ARMがデザインしたチップは省電力性に優れており、バッテリーで稼働することが多い携帯電話やスマートフォンで多く搭載されています。

 将来有望な企業であると思われるのですが、多額の有利子負債に加え、アメリカの携帯通信会社スプリントからの損失を抱えているソフトバンクが金融機関から1兆円の借り入れをしてまで買収する効果が見えないことが懸念点となるでしょう。

 

 前日(7月15日)の終値が6,007円だったソフトバンクグループの株価は620円安い、5,387円で本日(7月19日)の取引を終えています。-10.32% という下げ幅ですので、市場はARMの買収発表をあまり歓迎していないものと思われます。

 ARMが稼ぎ出す収益をスプリントが出している損失の穴埋めや、ソフトバンクグループの借金返済に費やすようであれば、ARMコアの開発にブレーキがかかってしまいます。

 これは創業者であるハウザー氏が懸念していることでもあり、業界全体にもネガティブな影響をもたらすことでしょう。研究・開発で重要なポジションにいる人物は引き止めなければなりません。ライバル社に引き抜かれる事態が発生すると、それだけ競争力が落ちることになるからです。

 逆に、これまで通り、研究・開発に売り上げの多くを費やす経営を貫くとARMを買収したメリットや相乗効果が見えてこず、「負債額を増やしただけ」と市場に見られてしまうことになります。

 

 省電力性が優れていることが強みであると主張しても、ネットに未接続である多くの家電製品はコンセントに接続して利用するタイプです。

 つまり、家電製品の性能での差が存在するなら、(IoT部分での)省電力で挽回することは難しくなります。冷蔵庫としての性能で劣っているのに、「IoT部分での省電力が魅力だから購入しよう」と考える消費者はまずいないでしょう。CPU部分が重要要素になると過信するのは本末転倒になるリスクが高いと思われます。

 投機家的な買収をするソフトバンクらしいと言えば、“らしさ” は前面に現れています。ただ、大型買収をしたスプリントに立て直しの兆しが見えない中で、新たな大型買収を敢行したギャンブルに市場の投資家が懸念を示し、売り注文が寄せられていると見るべきと言えるのではないでしょうか。