朝日新聞は相模原での障害者施設襲撃事件の被害者名を実名公表し、方策を紙面で発表すべきだ

 相模原市緑区にある障害者施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入し、多数の入所者が殺傷されるという事件が発生しました。

 非常に話題性の高い事件なのですが、通常の事件報道とは明らかに一線を画したものとなっています。それは被害者の実名がメディアで報道されていないことです。

 実名報道にこだわってきたメディアは今回の事件でも同じように報道するべきと言えるのではないでしょうか。

 

 バングラデシュで発生したテロ事件の際、朝日新聞は実名報道について、次のような見解を表明しています。

 中村史郎・朝日新聞ゼネラルエディター 報道機関が、事件や事故を報じるのは、社会を脅かす危険について情報を共有し、同様の悲劇を繰り返さないための方策を探るためです。

 

 朝日新聞が掲げる立場については賛否両論があると思われます。しかし、重要なことは自らの掲げた立場をどの事件においても適用することができているのかという点です。

 相模原で発生した事件はかなり特殊なケースが重なっていることが有力視されます。しかし、(労働環境が良好とは言えない)障害者施設で働く職員は全国に多数存在しますし、中には入所者からの横暴な振る舞いを受けている職員も必ずいるはずです。

 

 確かに職員側が泣き寝入りをすれば、今回のような事件は発生することはありません。ですが、人の性格は “千差万別” です。

 理不尽な境遇を余儀なくされ、虐げられ続けられる環境を強いられている職員の絶対数が増えれば、その中から暴力的な反応を示す人物が現れることも十分に考えられることと言えるでしょう。

 事件を起こした犯人が「最初から障害者に対する敵対的思想を持っていた」ことと、「障害者施設で働く中で、障害者に対する敵対心が育まれた」ことは結論は同じですが、それに至る過程はまったく異なります

 最初から障害者に対する敵対心を持っていたのであれば、採用段階の面接などで見抜く効果的な対策が求められます。しかし、働く中でそうした敵対心が生まれたのであれば、勤務体系や待遇が適切であるかを見直すことが必須事項となるからです。

 つまり、事件の再発防止策を講じるのであれば、表面上に現れた結果に対処するだけでは明らかに不十分です。一見しただけでは分からない “根深い部分” をどれだけ丹念に調査することができるかが求められているのです。

 

 朝日新聞が「理不尽な事件によって命を落とした方々の無念さを社会が共有し、再発防止策、安全対策を探ることができると考えます」と考えるのであれば、今回の事件でもそのような報道姿勢を貫かなければなりません。そのようにしないのであれば、ご都合主義によるダブルスタンダードです。

 「障害を抱えた人は善人である」という間違った前提条件を捨てなければなりません。知的障害を抱えていれば、刑事罰に問われないだけで、犯罪行為をする人物は一般平均と変わらない割合で存在すると考えるべきでしょう。

  • 理不尽な暴力を振るわれた
  • 服を破られた
  • 誹謗中傷など暴言を吐かれた
  • セクハラ行為を受けた

 上記の行為を障害者施設の入居者が職員に対して行った場合、施設としてどのような対応を採っているのでしょうか。「障害者なんだから、大目に見てあげてね」と職員を無理やり丸め込もうとしている施設もかなりの数が存在するのではないでしょうか。

 はっきり言って、この対応は最悪です。弱者である “障害者様” のために、職員に泣き寝入りを強いていることと同じなのですから、障害者に憎しみを募らせる絶好の環境を用意していることと同じです。

 

 障害者団体は今回の事件に対し、「強い憤りを覚える」とのコメントを出したようですが、一部の障害者が職員に対して日常的に行っている横暴な振る舞いに対する批判の声も出すべきです。

 事件の背景を徹底的に究明したいなら、入所者が施設内で問題視されるべき振る舞いをしている実態も洗いざらい明かされるべきでしょう。そして、その実態が明るみになった場合、職員に対するお詫びをした上で、現状を越えるの支出をする用意があること事前に宣言しておく必要があるはずです。

 知的障害者は起こした問題に対する罪に問われず、その家族も責任を負わないというのはあまりにムシが良すぎます。暴力沙汰も、誹謗中傷も、セクハラも野放しで職員が泣き寝入りというのは理不尽すぎることです。

 そうした行為があった場合、障害者の家族が賠償責務を負うべきでしょう。施設に預ける費用は宿泊費や身の回りの世話に要するコストであり、問題行為によって受けた損害に対する賠償分は含まれていないからです。

 「障害者の生命と尊厳は守られるべき」と主張するのであれば、「その介護に24時間365日当たっている施設職員の尊厳や生命も最大限守られるべき」と返されることになります。“泣き寝入り” の実態は施設職員の尊厳を著しく侮辱させている行為であることを障害者団体は強く認識すべきと言えるのではないでしょうか。