「日本海横断航路プロジェクト」で詰んだ泉田裕彦・新潟県知事

 現職の県知事が出馬表明を撤回するという事態が新潟で発生しました。圧倒的に有利な立場にある現職の地方自治体の長が選挙戦を戦わずに辞退することは異例と言えるでしょう。

 泉田裕彦・新潟県知事は「地元紙の新潟日報が憶測記事や事実に反する報道を続けたこと」を撤退の理由に掲げていますが、“事実に反する報道” であるなら撤退する理由はありません。おそらく、報じられた内容が限りなく事実に近いからではないかと考えられます。

 その新潟日報が追求してきたことの1つが日本海横断航路計画に対するフェリー契約トラブルです。7月24日付けの社説で以下のような内容を主張しています。

 

 県の内部資料によると、昨年6月の検船には県職員も同行し、船級が失効し取り直す必要があるとのリポートをまとめている。

 検船後の6月下旬には、県職員が泉田裕彦知事に船の取得費など調達状況を報告した。その後も県幹部への説明のほか、詳細な協議を重ね、8月下旬に売り主の韓国企業と契約を結んだ。

 県職員が同行した検船からわずか2カ月、それも船の性能が分からない中でなぜ契約締結を急いだのか、疑問は尽きない。

 

 新潟県が筆頭株主を務める第3セクターが韓国から “性能不足のフェリー” を購入した挙句、仲裁の結果、大損害を出すという失態を演じました。

 この取引に対し、「泉田知事も該当船舶を購入することを知っていた」と新潟日報は伝えています。

 泉田知事は「購入に対する説明は私にも県にもなかった」と反論していますが、その主張には別の問題が含まれていることを見落としてしまっています。

 

 日本海横断航路計画に関わっている主な公的機関とその関係図は次のとおりです。

画像:日本海横断航路計画に関係する主要機関および組織

 フェリーを購入した新潟国際海運は新潟県が60%超を出資する県の第三セクターです。泉田知事が主張するように新潟国際海運が県以外に対しても “億単位の出資要請” が出されている中でフェリー船舶の購入を独断で決定していたとすれば、それはガバナンス上の大きな問題となります。

 新潟国際海運とナフジェイ・パナマにトップとして君臨しているのは五十嵐純夫氏。新潟県のOBという肩書きを持つ彼は過去に新潟国際海運の前身と言うべき『北東アジアフェリー』でも組織のトップとしてミスをしています。

 わずか1ヶ月で運航が無期限停止となったプロフェクトを再開させる理由が非常に脆弱だったと言わざるを得ないものがあると言えるでしょう。

 

 ちなみに、新潟市はフェリー購入用の出資を打診されましたが、予算の計上を見送ったと新潟日報に報じられています。

 新潟市都市政策部によると、市の16年度当初予算案の編成の段階で県側から2億円の出資の打診があったという。しかし、「船の購入に必要な経費や船の性能などの情報が不明確だったため、出資の適否を判断できない」として予算計上を見送った。

 第三セクターへの出資比率が少ない新潟市は「出資の適否を判断するに必要な情報がない」という理由で、出資金を予算に計上していないのです。ところが、責任を担う立場であるはずの新潟県は「知らない間に契約がまとまっていた」と無責任な説明をしている状況です。

 第三セクターである新潟国際海運が勝手に契約を締結したのであれば、トップを務める五十嵐純夫氏の責任が最も重くなるでしょう。それと同時に過去に同様のプロジェクトを潰した人物がトップに置いたままで、好き放題できる環境を放置していた新潟県も同様に責任を問われなければなりません。

 

 新潟県が購入した「オハマナ号」は1989年に日本で建造され、「あけぼの」という名称で鹿児島と那覇間の航路を2003年2月まで運航されていました。その頃は21ノットの速度で航行が可能だったのですが、セウォル号と同じく増築が行われ、新潟県の手元に来た際には12ノットが精一杯という有様でした。

 おそらく、「21ノットが出る船舶として建造されたのだから、要求する速度は満たしている」という相手の主張を鵜呑みにし、確認作業を怠って契約書にサインをしたのでしょう。

 新潟県は県の財政に損害が及ばないようナフジェイ・パナマの破産手続きを開始させる考えのようですが、仲裁判断は裁判所の確定判決と同じ効力を持ちます。ヘーパーカンパニーであるナフジェイ・パナマを清算することで支払い責務を逃れようとする姿勢は「権力を監視することが役目」と自認するメディアから厳しく追求されることでしょう。

 性能チェックを拒み続けるような会社から多額の資金を必要とする船舶を購入した理由を説明する義務が新潟県や新潟国際海運にはあります。「知らなかった」との釈明のみで泉田知事が無傷で逃げ切ることはまず無理でしょう。

 自らが担った責任範囲を明確した上で、「知事としての対応に問題はなかった」と主張すべきなのです。それができないのであれば、クロと報じられるだけの理由があると言えるのではないでしょうか。