韓進海運が経営破綻するも、経済への影響は限定的だろう

 韓国の海運最大手である韓進(ハンジン)海運が8月31日に日本の会社更生法に当たる法定管理をソウル中央地方裁判所に申請し、経営破綻しました。

 世界7位の海運会社でもあったため、経営破綻による影響は世界中に広がっていると朝日新聞が報じています。混乱は起きているものの、その影響度は限定的で年内に収束するものと言えるでしょう。

 

 韓国の海運最大手で、保有船腹量で世界第7位の韓進(ハンジン)海運が経営破綻(はたん)し、同社が運航している貨物船68隻が、日米中など世界23カ国の44港湾で立ち往生しかねない事態に陥っている。韓国政府は4日、緊急の関係省庁次官会議を開いたが、当面必要な資金繰りに苦しんでいる。

 (中略)

 このうち、日本の横浜、名古屋、門司の3港では、タグボートや荷役などの業者が不払いを恐れて作業を拒否し、外洋で立ち往生しているという。

 同社は43カ国の裁判所に自社貨物船の差し押さえ禁止を申請。海洋水産省は代わりの船舶9隻を投入するほか、寄港地ごとに在外公館を中心に対策班をつくって、入港や荷役で混乱が起きないよう働きかける。

 

 韓進(ハンジン)海運ですが、“ナッツリターン事件” で世界中にニュースが流れた大韓航空などを保有する韓進(ハンジン)財閥を構成する企業の1つです。

 海運業界が不況という状況下でダンピング的な価格設定でシェアを確保してきたのですが、利益追求をすることができず、1兆ウォン(約920億円)規模の経営再建策を債権団から突きつけられるなど、「危険水準に入っている」と言われている状況でした。

 今年4月の時点で韓国産業銀行の管理下に置かれており、5月には趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長が平昌五輪の組織委員会委員長を辞任しています。それだけ危ない状況だったのでしょう。

 

 海運事業ですが、高額なコンテナ船舶を購入し、荷物を運搬することで船舶費や諸経費を捻出するというビジネスモデルです。『保有する船舶』が企業が持つ “資産” なのですが、その差し押さえを禁止する申請を韓進海運は行っているのです。

 入港料や荷役料の支払い能力を持たない企業の船舶を港に入れ、港湾業務に携わる企業にタダ働きを強制する理由はありません。

 韓進海運が保有する船舶を差し押さえ、コンテナの積み下ろし費用を支払わせるという選択肢はありますが、余分な手間・時間が必要となります。また、経営破綻をした企業の船舶を費用ゼロで受け入れると、「弊社も経営が厳しいから、入港料・荷役料を下げるべき」という思わぬ副作用を受ける原因にもなり得るものです。

 したがって、入港拒否は経営的に最も妥当な判断であり、韓進海運もしくは支援していた韓国政府が費用を用意しない限り、根本的な解決とはならないでしょう。

 

 韓進海運が経営破綻したことで、最大の影響を受けるのは韓国の港湾都市である釜山(プサン)でしょう。韓進海運の本拠地であり、極東アジアの “ハブ港” という地位だったのですが、その根幹が崩れ去ったからです。

 台湾・中国・日本の海運企業が韓進海運のシェアを奪うことで混乱は終息へと向かい、同様に釜山(プサン)の地位も上海や台北、横浜・名古屋・神戸といった港町に役割が移転することになることが予想されます。

 輸送に韓進海運を利用していた企業は大きな貧乏クジを引くことになってしまいましたが、経済的な大問題となるような規模にまで発展することはないと言えるでしょう。極東アジアでのパワーバランスが変わる際に起きた混乱で収まるものと思われます。