菅直人は “フクシマの恐怖” を煽る暇があるなら、諫早湾干拓事業の和解協議に尽力しろ

 安倍政権の方針に対し、批判の声をあげることに熱心な民進党が存在感を消そうとする議題があります。その1つは長崎県・諫早湾干拓事業でしょう。

 干拓地を造成する排水門を開門するかを巡り、漁業者・農業者・国が裁判で争い、当時の民主党政権による決定が現在にまで影響しているからです。このような状況下で、国が総額100億円の基金を設ける方向で和解協議を進めるとNHKが報じています。

 

 長崎県の諫早湾干拓事業で堤防の排水門を開門するかどうかをめぐって行われている、地元の漁業者や国などの和解協議で、国は和解に向けて、開門はしない代わりに漁場の環境を改善するための総額100億円の基金を新たに設ける考えを明らかにしました。

 

 諫早湾干拓事業は1950年代に発案され、「戦後の食糧難を解決すること」が目的でした。しかし、事業計画が実行に移されることはなく、1989年に着工が始まるという本来の目的から逸脱した公共工事であることは明らかなプロジェクトとして建設が始まったという経緯があります。

 ところが、潮受け堤防が閉鎖され、諫早湾の干潟部分が有明海から切り離されてから有明海での漁業被害が深刻となり、漁業者から「水門を閉めたことが不漁の原因」との声が出始め、開門を訴える運動が起こり始めます。

 国が行う公共工事を止めるには訴訟で差し止める他に道はありません。そのため、開門を求める漁業者、開門されると困る農業者、国の三者による訴訟が繰り広げられることとなりました。

 

 それぞれの立場は以下のとおりです。

  • 漁業者(開門に賛成)
    • 2004年:佐賀地裁で一部勝訴、工事の仮処分が決定
    • 2005年:福岡高裁で処分取消、工事が再開
    • 2008年:佐賀地裁で「水門を調査目的で5年間の解放すること」を命じる
    • 2010年:福岡高裁も「水門を5年間解放」を命じる
  • 国:菅直人首相(民主党)
    • 福岡高裁が2010年に命じた「水門を5年間解放」に対し、上訴の見送りを発表
    • 「水門を5年間解放」の判決が確定
    • 開門の期限は2013年12月であることも同時に確定
  • 農業者(開門に反対)
    • 開門の差し止めを求め、長崎地裁に提訴
    • 2013年11月に「水門を当面開けてはならない」という仮処分命令が出る
    • 2015年:福岡高等でも水門開放要求は棄却

 菅直人首相(当時)は「水門を解放する」ことを2010年12月に確定判決とさせたのですが、行動に移すことはありませんでした。東日本大震災が2011年3月に起きたこともあり、2011年の年度内に実施できなかったとしても批判はされないでしょう。

 しかし、2013年12月までという3年間の猶予期間がありながら、行動を起こすことができなかった民主党政権の政権担当能力は厳しく断罪されるべきものです。

 

 特に、菅直人氏は「諫早湾の水門解放」の立場を鮮明にし、訴訟の上でもそのような確定判決へと導いたことは否定しようのない事実です。

 そのため、水門解放に反対する農業者を説得することは菅直人氏に課された責務と言えるでしょう。“フクシマの恐怖” をネット上で煽り続ける暇があるなら、諫早湾干拓事業における和解協議に向けて尽力するべきです。

 なぜ、自らが首相時代に下した政治判断に対する責任を最後まで全うしようとしないのでしょうか。安倍政権は「漁業者側に100億円規模の基金を設立」する方向で和解協議をまとめようと動いています。

 「対案を出す」と豪語する民進党は諫早湾干拓事業問題にどのような具体的で有効性のある対案を提示するのかを示さなければなりません。

 

 “水門を開けなければ漁業者へ賠償、開ければ農業者へ賠償” という問題を生み出した民進党は問題の解決策を提示することが党としての責任です。特に、菅直人氏はその中心人物と言えるでしょう。

 諫早湾干拓事業の和解協議から逃げるために、フクシマを利用する政治姿勢は政治家として失格なものではないでしょうか。