ドミノピザと佐川急便の混乱は「運用でフォローする」という経営方針の弊害が表面化したことである

 クリスマスのタイミングでドミノピザと佐川急便が顧客を捌ききれず、混乱を来したことがニュースとなっています。

 現場が槍玉にあげられていますが、実態は必要な投資を怠ってきた経営判断のミスでしょう。どちらの業界も根本的な “ボトルネック” が存在することを無視したシステムで運用を行っているからです。

 

ボトルネックの存在を認識しなければ、業務が手に負えなくなるのは当然

 どのようなビジネスにおいても、“ボトルネック” が存在します。「成果を出す際に科される制約のこと」を意味しているのですが、ドミノピザや佐川急便だと以下のものがボトルネックと言えるでしょう。

  • ドミノピザ:ピザ窯の数
  • 佐川急便:配送人員数と配送先の在宅率

 ビジネスを行う上ではボトルネックの存在を認識した上でシステムを構築することが不可欠です。

 

 しかし、企業間競争によって現れた経営上の数字ばかりに経営陣が固執した結果、“運用でフォローする” という最悪の経営判断をすることになり、現場にしわ寄せが生じたことで問題が表面化したのです。

 つまり、認識を改める必要があるのは経営陣であり、システムに適切な投資を行い、現行プロセスを変えなければならないということを意味しています。

 

ドミノピザは「ピザの焼き上がり時間」を可視化するべき

 ドミノピザで「持ち帰りは1枚無料」のキャンペーンで、クリスマスの時期に客が殺到したことでしょう。自宅でピザを焼くことができる顧客が極めて限定的であることを考えると、『ピザ窯で焼くことができる数』が “ボトルネック” になることは明らかです。

 ただ、実際の店舗では『ピザに具材を乗せるなど調理するエリア』のスペースに限りがあるため、来店客が急増した場合の体制ができていない場合はこちらが “ボトルネック” であると見られがちになっています。

 顧客からの不満を取り除くためにドミノピザがすべきことは「ピザの焼き上がり時間を可視化すること」です。

ピザ窯の稼働率状態店舗の混雑状況
〜100% 😃 焼き上がれば、受付分のピザすべてが手渡される
(待ち時間:10分以内)
101% 〜 200% 😅 次回の焼き上がり分で、受付分のピザは手渡される
(待ち時間:15〜30分)
201% 〜 😱 受付分のピザが焼き始められるのは次々回以降
(待ち時間:30分以上)

 IoT(モノのインターネット)の時代なのですから、各店舗ごとの『ピザ窯の稼働率』をインターネット上で確認できるようにすることが1つの有力なアイデアです。

 

 「どのぐらいの時間が要するのか」を事前にオープンにしていれば、顧客から “言いがかり” を付けられる筋合いはありませんし、顧客も事前に予約をするなど工夫をするでしょう。詳細なデータを公表する必要はなく、おおよその目安を顧客に見せれば良い話です。

 「ピザの具材をトッピングすることに要する時間」や「焼き上がりに必要な時間」は会社側が持っているのですから、それを『予約受付システム』や『待ち時間可視化』に反映させなければなりません。

 情報システムに投資すべき資金を惜しみ、現場のアルバイトを増やすことで乗り切ろうと考える経営姿勢は一見すると正しいように見えますが、実態は “運用でフォローする” というノウハウが組織に蓄積されない危ないものです。システムへの投資を怠ると、顧客離れに拍車がかかることを自覚する必要があると言えるでしょう。

 

佐川急便がすべきは「初回配送率の可視化」と「再配送時の有料化」

 佐川急便は全国規模での遅配や代引き伝票の書き換えという問題が発覚し、経営側の責任が問われることになっています。伝票書き換えは個人の責任が厳しく問われるにしても、遅配については配送システムそのものを見直す必要があることは明らかです。

 繁盛期や人手不足が原因で配送に遅れが生じることは想定できることです。これを “現場の努力” でカバーするのではなく、配送の効率化に必要な投資を行い、結果を出すことができていなかったことが根本的な原因と言えるでしょう。

 配送業では「受取人が不在」であれば、荷物を届けることができず、再配送をする必要が生じます。宅配ボックスがある建物もありますが、冷蔵・冷凍の荷物や大きい荷物は持ち帰らざるをえない状況になることも少なくはないはずです。

 

 “すれ違い” による影響が大きく出るビジネス形態は変えようがないのであれば、どのぐらいの頻度で起きるのかは顧客側に見えるようにしておくべきです。

 そのため、『初回配送率の可視化』を公式サイト上で公開しておくメリットはあるでしょう。天気予報の「平年」に当たる基準となる数値を作り、前日の配送実績を掲載すれば、気合いでカバーできる限度も明確になります。

 また、『再配送有料化』を進めることも重要です。「すぐに持って来てくれ」という顧客からの要求は「バスに乗り遅れたから、停留所まで戻って来い」と言っていることと同じです。

 次のバス(=次回配送車)を待たないのですから、特別料金を徴収することを正当化しなければなりません。これは配送順路を変更することで、別の顧客に荷物を配送することに遅れが生じる可能性があり、会社が “お詫び” をしなければならないリスクを含んでいるからです。

 

無料サービスの充実は自分たちが疲弊するだけであるという認識を持つ必要がある

 日本では「無料サービスの充実」が他者との差別化を図る上で効果的であることは否定できません。しかし、過度な無料サービスは現場に負担を押し付けていることを経営陣は自覚した上で、戦略を構築する必要があるのです。

 少なくとも、サービスに対する正当な対価を得るシステムが構築されていることが絶対条件ですし、自分たちのビジネスの “ボトルネック” が考慮に入れられた上限が設定されていることも必須です。

 ドミノピザも、佐川急便も、“上限” が設定されていなかったため、『現場の努力』で誤魔化しきれなくなったことが原因で問題がマスコミに報じられることになったのでしょう。つまり、責任を取る立場にあるのは経営陣なのです。

 経営陣が社内で高給を得ている理由は会社の資本(資金や人員)を適切に配分・配置し、結果を残すことが求められているからです。プレッシャーをかけるだけで本質的な問題を解決できる力がないなら、能力不足を理由に降格処分が下されるべきでしょう。トップが能力不足だと、しわ寄せを受けるのは末端であり、会社全体が不幸になることを覚えておいて損はありません。