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クリス・フルームにモータードーピングの嫌疑をかけるなら、他の現役選手に出力値データの公表を迫るべきだ

スポーツ

 アメリカのCBSが「クリス・フルームが所属するチームスカイが “モータードーピング” をしていた可能性がある」報じたことを、AFP通信が伝えています。

 フランスメディアとして、イギリスチームやエースのイギリス人選手を叩きたいのでしょう。ただ、フルームに嫌疑をかけるのであれば、情報公開に消極的な他の選手にプレッシャーを与える方を優先する必要があるはずです。

 

 フランス反ドーピング機関(AFLD)で検査主任を務めたこともあるジャン・ピエール・ベルディ(Jean Pierre Verdy)氏は、ヒルクライムのスピードに不審なものを感じたと話している。

 (中略)

 2015年のツールでは、タイムトライアルステージの前に、各選手の自転車の計量が行われた。そしてCBSが紹介した大会関係者の言葉によれば、スカイの選手の自転車だけがほかの自転車より、それぞれ800グラムほど重かったという。

 

 “疑惑” として報じられたのは「ヒルクライムのスピードが速すぎると感じた」という点と「タイムトライアルバイクが800グラムほど他のチームのものより重かった」という点です。

 これら2点を合わせて、チームスカイがモータードーピングに手を染めていた可能性があると主張しているのでしょう。ですが、確固たる証拠もなく、信憑性が疑われる証言しかないことが実状です。

 

疑われたヒルクライムは第10ステージ

 ベルディ氏が不審なものを感じたステージは2015年のツール・ド・フランス第10ステージでしょう。大会最初の超級山岳ステージとなった『ラ・ピエール・サンマルタン』への登坂でクリス・フルームがライバル勢に完勝したからです。

 “ファンタスティック・フォー” と銘打たれた優勝候補の中で圧倒的な登坂力を見せつけたため、疑惑が生じたことは事実です。

2015年ツール・ド・フランス第10ステージの成績
 選手タイム
1 クリス・フルーム 4h22'07"
3 ナイロ・キンタナ +1'04"
11 アルベルト・コンタドール +2'51"
21 ヴィンチェンツォ・ニーバリ +4'25"

 最初の山岳ステージで圧倒的な力の差を見せつけたこともあり、2015年のツール・ド・フランスは優勝者が事実上確定しました。ところが、「フルームの成績はドーピングによるものでは」との疑いが浮上し、メディアから嫌疑がかけられたのです。

 

フルームは出力値データを公表して反論

 ドーピング疑惑をかけられたフルームは自転車ロードレース選手としては始めてとなる自らの出力データを公表しました。

 これまで推測による批判を展開してきたメディアはデータ付きで反論されたことで完全にトーンダウンをすることになりました。なぜなら、フルーム以外の選手は誰も出力値のデータを公表していないからです。

クリス・フルームが記録した出力値
 2015年
8月
2007年
7月25日
身長 186cm 186cm
体重 69.9kg
(67kg)
75.6kg
体脂肪率 9.8% 16.9%
最大出力 525W 540W
継続出力
(20〜40分)
419W 420W
VO2
(酸素摂取量)
84.6
(88.2)
80.2
watts / kg
(出力重量比)
5.98
(6.25)
5.56

 括弧内の数値はツール・ド・フランスでの体重から算出された推定値です。酸素摂取能力が高まったこと以外は不審な点はないと言えるでしょう。

 登坂に要する時間での出力値から算出できるパワーウェイトレシオ(出力重量比)も科学的にクリーンと示される値 6.25 ですので疑惑を叫ぶことは “言いがかり” と見なされることになるのです。

 

「タイムトライアルバイクの重さ」より、「出力」と「空力」の方が重要

 チームスカイが利用するタイムトライアル用のバイクが他のチームより1キロ弱重かったことを “モータードーピング” の根拠として扱っていますが、これもミスがあると言えるでしょう。

 なぜなら、タイムトライアルで差が生み出す要因となるのは『選手の出力値』と『空気抵抗』です。自動車やバイクのレースとは異なり、高い馬力を継続して出すことができる選手がタイムトライアルでは圧倒的に有利です。

 その際に “最大の敵” となるのは空気抵抗であり、抵抗値を低くするための自転車を用意し、空力的に優れた選手のフォームを見つけ出すことが優先されることなのです。

 ちなみに、2015年はモータードーピングが騒がれた時期でもあり、チームスカイは UCI から以下のようなチェックも受けています。

画像:キリエンカ(チームスカイ)のバイクを検査するUCIの職員

 2015年の世界選手権でタイムトライアル王者となったヴァシル・キリエンカのバイクですが、フレーム内部までチェックを受けることが一般的なのです。

 また、競技を管轄する UCI の規定に則っていますし、ツール・ド・フランスの主催者であるASOが定めた手順で全チームが公平に検査が行われていれば、問題となるようなものはないでしょう。

 

フレームではなく、ホイールにモーターを隠すという噂は “都市伝説”

 モイールに隠されたモーターを利用するという噂は一種の “都市伝説” です。過去にガゼッタ・デッロ・スポルト(イタリア)が報じたものを再利用している可能性が高いと言えるでしょう。

画像:ガゼッタ紙が報じた
モーター内臓フレームのイメージ

 仮に、わずか 800g の重量増と引き換えに電動アシスト機能が得られるなら、一般販売で大ヒット商品となるでしょう。一般的な電動アシスト機能付き自転車の重量は20キロ超。“モータードーピング説” と同じ「リチウム電池」を動力源にモーターを動かしているとCBSは報じたのです。

 “都市伝説” としてささやかれる技術が確立されているのであれば、開発資金が豊富にあり販売網も整備されている自転車製造メーカーが『闇のマーケット市場での価格』を上回る金額で買い取ることでしょう。

 しかし、そうした動きはないのです。

 それから、自転車ロードレースではパンクでタイヤ交換をする可能性が高い競技であり、ニュートラルに『モーター付きのホイール』を手渡したことで “モータードーピング” が発覚する確率が高いことを見落とすべきではないと言えるのではないでしょうか。