「生活保護の不正受給率は0.45%だから大した問題ではない」という主張は「不衛生な食品は金額ベースで0.45%なので問題ない」と主張することと同じ

 読売新聞のオンラインサイト『ヨミドクター』で原昌平編集委員が生活保護の不正受給に対する記事を掲載しています。

 「生活保護の不正受給はごくわずかで問題ではない」という論調なのですが、擁護になっていないことが問題です。金額ベースでの不正受給率が 1% を下回っており、批判の声を抑えたい思惑があるのでしょうが、逆効果を生む主張内容だと言えるでしょう。

 

 15年度の保護費の総額は3兆7786億円(予算ベース)。不正受給額をそれで割ると、0.45%にすぎません。ごくわずかな比率であって、不正がはびこっているとは、とうてい言えません。逆に見ると、99.55%は、いちおう適正な支出だったわけです。

 保護世帯数は、15年7月末時点で160万2551世帯(被保護者調査)。不正件数をこの世帯数で割ると、2.7%(ひとつの世帯が複数の不正にかかわることもあるので、これが単純に不正率とは言えない)。36.5世帯に1件の不正があったというレベルの数字です。

 

 原編集委員が主張する内容は「生活保護の不正受給は金額ベースで 0.45% である」というものがメインとなっています。

 ただ、不正受給の件数では 2.7% であり、意図的に低い数値の方を強調していると批判を呼ぶことになるでしょう。インサイダー取引と同じで、不正に手を染めたことが問題です。「金額が少ないからお咎め無し」となるようなことはあってはならないことなのです。

 

 日本では多くの企業が 99.999% の精度を求められることが当たり前になっています。“ファイブナイン” と呼ばれるものですが、「生活保護の不正受給」がこの数値より低い値で黙認されることなど起こりえないでしょう。

 例えば、次のようなケースを考えてみるべきです。


 食品を販売するA社から『賞味期限切れの商品が再出荷される割合は 2.7%』だが、『金額ベースでは 0.45%』であるため、A社の商品に不衛生な商品がはびこっているとは、とうてい言えない。


 読売新聞の原編集員が述べた生活保護の不正受給に対する考えを適用すると上記のロジックが成り立つ訳です。「金額ベースで 99.45% の商品には何も問題はないのだから、文句を言うな」と読売新聞は紙面上で読者を一喝したでしょうか。

 おそらく、「けしからん!」と “食の安全” が脅かされたことを理由にA社の対応を大バッシングすることでしょう。生活保護の不正受給に対する批判が起きているのは不正受給をしている者がA社と同じ振る舞いをしているからです。不正受給を見逃す理由はどこにもありません。

 

 高額な生活保護を不正に受け取っていたケースが摘発されれば、1件あたりの不正受給額は減少します。これは新たに同額の不正受給が認定されなければ当然の傾向です。

 事前チェックを入念に行えば、不正受給の多くは防げると主張したところで福祉事務所がどうやって所得実態を把握するのでしょうか。マイナンバーを紐付けることで可能となるでしょうが、プライバシーの観点から導入に反対する界隈が多くあるのです。

 また、不正受給となる申請が 2.7% もあることを深刻に捉えなければなりません。

 「クラスに1人の割合で不正入学をした生徒がいること」と割合は同じだからです。言い換えると、「メディアが報じるニュースの内、2.7% は誤報である」ということになります。

 読売新聞は公式サイト上で1日100本以上の新着ニュースを掲載していますが、その内の 2.7% が誤報であっても、情報量全体では誤報の割合は 0.45% なのだから問題ないというスタンスなのでしょうか。原編集委員が擁護しているロジックはそういった主張なのです。

 

 少なくとも、生活保護の不正受給件数を 0.5% 未満の割合にまで落とすことが要求されることになるでしょう。

 なぜなら、金額はあくまでも結果に過ぎず、結果を生むことになる原因部分に手を加えることができなければ、根本的な問題解決ができないからです。生活保護は社会のセーフティーネットとして必要不可欠な制度ですが、それを悪用する世帯が 2.7% も存在することは制度を維持する上で大きな問題になると言えるでしょう。

 また、それを黙認する論説を書く原解説委員の姿勢も事態を悪化させるものであることを自覚する必要があるのではないでしょうか。