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金銭解雇を制度として認め、雇用の流動化を促進しない限り、長時間労働問題は解決しない

 金銭解雇を可能とする新しい制度が厚労省の検討会で例示されたと NHK が報じています。

 長時間労働の問題を解決する上でポジティブな効果をもたらすと言えるでしょう。なぜなら、過労死など長時間労働問題の多くは「社員を解雇することができない」ことに起因するからです。

 

 解雇などの労使間の争いを金銭で解決する、新しい制度について議論する厚生労働省の検討会で、解雇された人が直接、企業に損害賠償を要求できるようにするといった制度の例が示されました。

 この検討会では、解雇が裁判などで無効とされた場合、解雇された人が職場に復帰する代わりに、金銭で補償する制度について議論していて、3日は事務局から制度の例が示されました。

 この中では、不当に解雇された人が、直接、企業に損害賠償を要求できるようにする一方、企業は、賠償を行えば、雇用関係を解消できるなどとしています。

 

 「金銭を払うことで簡単に解雇されるようになる」と懸念を示す人もいるでしょう。しかし、社会人として働いた経験を持つ人であれば、「なぜ、あの人は酷すぎる仕事内容なのに降格(減給)・解雇にならないのか」と感じた経験は1度や2度ではないはずです。

 その答えは非常に簡単で、企業が従業員に対し、減給するハードルは極めて高く、解雇することは事実上不可能だからです。

 

 例えば、業務遂行能力の低い従業員を解雇しようとしても以下の4要件を総合的に満たし、相当と認められなければ解雇は無効とされてしまうのです。

  1. 人員整理の必要性
    • 雇用者の都合で解雇できない
    • 人員削減しなければ経営が維持できないという必要性が求められる
  2. 解雇回避努力義務の履行
    • 人員整理は最終手段である
    • 役員報酬のカット、新卒採用の抑制、配置転換などに着手すべきである
    • 研修等で業務遂行能力の改善を図るべきである
  3. 被解雇者選定の合理性
  4. 手続の妥当性

 会社が傾きかけていなければ、解雇は認められないのです。また、解雇を回避するために会社側がどれだけ努力を惜しみなくおこなったのかという点も考慮される仕組みとなっています。

 事業の将来性の見通しが低ければ、経営戦略的に事業廃止を行い、従業員の多くは解雇とすることが普通でしょう。ですが、三陸ハーネス事件での裁判で「単なる経営戦略上の事業廃止は必要性が低い」という妥当性に疑問を呈する判決が下されているのです。

 これでは企業が正規雇用に乗り気にならないことは当然であり、結果として、人員が補充されず現社員にすべての負担が行くことを招くのです。

 

 なぜ、企業は正社員の雇用に消極的なのか。それは「正社員として雇用すると、減給は困難で、会社が傾くまで解雇が不可能だから」です。

 解雇ができないなら、解雇する必要のない人員だけを雇用し、繁盛期を限られた人員で乗り切るしか会社が生き残る術はありません。絶対数が不足しているから、長時間労働が発生することになりますが、会社が倒産して全社員が路頭に迷うよりはマシと言えるでしょう。

 知的な社員はその現実を理解しているから、労働者全体の問題として盛り上がりに欠けるのです。

 「残業時間が少ないヨーロッパを見習え」との声が組合から上がるでしょうが、ヨーロッパでは金銭解雇のハードルは高くありません。余剰人員が生まれれば、パフォーマンスの低い社員を金銭で解雇できるから業務量が適切に管理することが可能になるのです。

 

 ビジネスの世界では使用するツールが劇的に変化することは当たり前です。10年前と比較するだけでもIT化は当たり前となり、デジタル化によってビジネススピードが急速に上がりました。

 業界ごとに要求される内容は異なりますが、水準は上がり続ける一方であり、“昔の知識” が通用するのは例外的と言えるでしょう。

 つまり、今現在求められる水準を満たすことができない社員は新入社員と入れ替えるべきであり、それができない組織は必然的に疲弊するのです。新卒採用の平均水準以下しかパフォーマンスを出せない社員でも減給は難しく、解雇は不可能であることが現在の日本なのです。

 

 雇用の流動化を一般的にしないかぎり、長時間労働の実態が改善に向かうことはないでしょう。業務遂行能力の低い正社員を “損切り” できないのであれば、社員全体が疲弊することになります。

 経営が怪しくなった初期段階での人員整理を含めた方針転換に制約を設けている実状を変えることが不可欠なことと言えるのではないでしょうか。