アジア版 TPP に該当する RCEP 交渉会合、隔たり大きく早期妥結に見通し立たず

 アジア版 TPP というべき RCEP の交渉会合が兵庫県神戸市で行われていましたが、各国が主張する関税撤廃の割合の溝が埋まらず、進展は見られなかったと NHK が報じています。

 交渉参加国が TPP と異なるため、TPP で合意した内容がそのまま移植されることはないでしょう。「TPP 反対」は声高に主張していた野党が「RCEP 反対」を掲げていないことは奇妙なことです。

 

 日本や中国、韓国、それにASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国など、アジア16か国が参加するRCEPの交渉会合は、先月27日から神戸市で行われていましたが、3日夜に5日間の日程を終えました。

 今回の会合では、物品の関税やサービス、投資の自由化の水準、それに知的財産権の保護などの分野で重点的に協議しました。

 外務省によりますと、物品の分野で、依然として関税を撤廃する割合をめぐって各国の主張の間の溝が埋まらなかったほか、新たに合意に至った分野もなかったということです。

 

 TPP でも加盟国間での交渉は難航しました。交渉妥結に向け、どの国もある程度は譲歩する形となっていましたので、TPP を上回る譲歩を引き出すには相応の “カード” を切る必要があり、一筋縄とはならないことは想定の範囲内と言えるでしょう。

 ただ、単純な経済協定では発効するメリットはありません。なぜなら、市場規模の大きいなど重要度の高い国との間で二国間協定を締結するという形を採れば済むからです。

 

 多国間協定を締結するということは “共通ルール” を策定することを意味します。TPP では「投資家保護協定」の項目が用意されており、国外に進出した企業が進出国の政府から “嫌がらせ” を受けた際の救済措置が存在しました。

 それと同じ項目は RCEP にも必要不可欠と言えるでしょう。RCEP の加盟交渉国には以下のような国が名を連ねているからです。

画像:RCEP 加盟交渉参加国

 農産物を無関税で輸出したいオーストラリアやニュージーランド。外資系企業から自国企業を守りたい ASEAN 諸国。共産党の意向を遵守させたい中国などが交渉国なのです。

 中国に進出した企業であれば、“チャイナリスク” を肌で実感しており、「投資家保護協定」を盛り込むことは不可欠と考えるでしょう。また、違反があった場合、協定から追放する枠組みが整備されていなければ、RCEP が機能しなくなることを自覚しておかなければなりません。

 

 ダンピング常習犯である中国や韓国と経済協定を結んだ結果、ダンピングで国内企業が中国・韓国企業に駆逐されてからでは手遅れになってしまうのです。

 「(中国や韓国から)安い製品・商品が入ってくるのだから、国内から雇用が消えても良いじゃないか」という考えは危険です。中国のダンピングを抑える能力がなかった WTO が十分に機能していないことを RCEP の反面教師としなければなりません。それをサボると、将来的に大きなツケを払い続けることになるでしょう。

 また、TPP に反対していた野党やマスコミなどが RCEP には反対していないことは不思議なことです。

 オーストラリアやニュージーランドは農作物や酪農製品を無関税で輸出したいという思惑で交渉に参加しています。それらの分野では TPP と同様のダメージを受けることが十分に考えられるのですが、反対意見は野党からも、メディアからも聞こえてきません。

 非常に奇妙なことと言えるでしょう。TPP との大きな違いは中国産や韓国産の農産物も非関税で入ってくることですが、「中国や韓国に日本の市場を明け渡したい」という思惑があるなら、事を騒ぎ立てず、交渉の進捗状況を見守る理由にはなると思われます。

 

 TPP のようにリターンが見込める経済協定であれば、締結に向けたタフな交渉を続けるメリットと見返りはあるでしょう。ただ、RCEP のように加盟国のエゴが優先され、ダンピングによって自国企業が淘汰されるリスクを排除できないのであれば、無理に合意に達する必要はないという前提で交渉を行うべきだと言えるでしょう。