イギリスが EU からの離脱交渉でどのように振る舞うのかを分析し、交渉時のサンプルとすべき

 イギリスが EU に離脱通知を行ったことで、離脱交渉が始まることとなりました。EU 側も方針を発表したと NHK が伝えていますが、両者の優先順位には差異がある状況です。

 “交渉下手” のイメージが強い日本は「交渉の結果」を見守るのではなく、「交渉でどのようにカードを切るのか」という点を分析し、自らの外交交渉に活かすべきと言えるでしょう。

 

 離脱の条件をめぐる交渉について、トゥスク大統領は、イギリスに住んでいるEU各国の市民の権利をめぐる問題や、EUがイギリスに求めているEU予算の分担金などの問題を解決する必要があることを明らかにしました。

 交渉の進め方をめぐって、イギリスのメイ首相は開始当初から貿易交渉も平行して進めたい考えを示していて、両者の思惑の違いが改めて浮き彫りになった形です。さらにトゥスク大統領は、イギリス側が治安や安全保障の分野で協力を続ける代わりに、EU側に歩み寄りを促したいという思惑をにじませていることについて、「安全保障を、交渉材料にはしない」と述べてイギリス側にくぎを刺しました。

 

 イギリスと EU による “離婚協議” が本格化したと例えることが最も適切と言えるでしょう。ただ、両者が優先したい事柄には違いがありますので、一筋縄では行かないことだけは確実です。

 

  • イギリスの優先順位
    1. 離脱条件の交渉
    2. 自由貿易協定の交渉
  • EU の優先順位
    1. 離脱条件の交渉
      → 在英EU市民の権利、EU予算への分担金
    2. 自由貿易協定の交渉

 「自由貿易協定の交渉を開始する時期」で両者の意見が対立しており、離脱交渉が難しくなるでしょう。イギリス側は「自由貿易協定の交渉は離脱条件の交渉と同時に行うべき」と主張し、EU 側は「離脱条件がまとまってから、自由貿易協定の交渉」という立場を採っているからです。

 EU が求める離脱条件の交渉はイギリスの負担分を確定させる交渉でしかありません。「これを先に決めるべき」と主張すれば、「なぜ、リターンが見えない中、負担分だけが先に決めなければならないのか」と反発が起きることは容易に想像できることです。

 したがって、最悪の場合は交渉がまとまらず、イギリスは離脱だけが決まり、EU はイギリスからの手切れ金と見積もっていた分担金が失われるという両者ともに大損するシナリオが現実には存在しているのです。

 

 EU としては、組織を運営するための予算に穴を空けることは避けたいため、離脱条件の交渉を優先したいという思惑があります。

 「安全保障は交渉材料しない」と EU のトゥクス大統領は牽制していますが、コメントを出したことで “EU 側の泣き所” と見られる恐れがあり、あまり上手いやり方とは言えません。

 「離脱条件の交渉に含まれている在英EU市民の権利は安全保障に関係する」とイギリス側が主張すれば、この交渉は “お蔵入り” する可能性が高まるでしょう。トゥクス大統領が「安全保障は交渉材料ではない」と述べてしまっているからです。

 それなら、「安全保障とは関係のない自由貿易協定を先にやろうではないか」とイギリスが最も期待する項目を先にしようという機運が盛り上がることを意味しているとも言えるでしょう。

 

 両者が持つ “交渉のカード” をどのように切り、自分たちの利益を最大化させるのか。本気の交渉が行われる訳ですから、方法論を分析することは日本にとっては格好の教材となるでしょう。

 「日系企業が不利な状況に置かれることがないように状況を見守りたい」と述べつつ、両者がどういった交渉手段を用いるのかを観察し、EU との EPA 交渉に活かす “したたかさ” が必要であると言えるのではないでしょうか。