築地市場再整備派の希望は足立康史議員によって既に打ち砕かれている

 東京都の小池百合子知事が設置したプロジェクトチームが最大800億円をかけて築地市場の建て替え案を示したことに対し、業者で作るグループが案を採用することを要望していると NHK が伝えています。

 6日に都庁で会見を行い、豊洲への移転取りやめを決断するよう求めたのですが、足立康史議員(維新)が衆議院農水委員会でその希望を打ち砕いた現実を見る必要があると言えるでしょう。

 

 築地市場の業者で作るグループが6日、東京都庁で会見し、「現場の声を反映した案がようやく出てきた」と述べ支持する考えを表明しました。そのうえで、豊洲市場について、土壌汚染の問題が解決されず、使い勝手も悪いなどとして、小池知事に対し築地市場の建て替え案を採用し、豊洲への移転を取りやめるよう早期の決断を求めています。

 会見したグループの山崎浩二代表は「小池知事は築地で働く人の思いを受け止め、築地ブランドを守るためにも決断してほしい」と話しています。

 

 市場整備に対する金銭的な負担がない業者からすれば、「移転を止めること」が最優先事項なのでしょう。しかし、中央卸売市場を管理する立場にある都はコスト意識を持たなければなりません。

 “現場の思い” に理解を示す代償が多額の建設コストであり、運営コストなのです。情報を公開した上で、「これが容認できる範囲内であるのか」を都民に信を問うことが最低限の責務だと言えるでしょう。

 築地市場再整備派にとっては残念なことですが、乗り越えなければならないハードルはあまりに高く、“築地ブランド” の足元は大きく揺らいでいるのです。

 

ハードル1:東京都に国(農水省)の “中央卸売市場整備計画” を覆す手立てがない

 足立議員が衆院・農林水産委員会(映像)で質問を行った際、「現行の中央卸売市場整備計画では築地市場の豊洲への移転が前提になっている」との答弁を引き出しました。

 これは東京都が築地市場を移転する前提で国(農水省)からの協力を得ていることを意味しており、東京都の都合で計画を変更・撤回することはできないのです。国が “拒否権” を持つ案件で、計画内容を変更させるには相当の根回しが必要となります。

 「地元の民意」で突破することが難しいことは沖縄県での動きを見れば、一目瞭然と言えるでしょう。

 

ハードル2:豊洲市場に投じられた国費の返還義務が生じる

 “都民の意向” で築地市場の再整備へと舵を切ろうとした場合、豊洲市場に費やされた国費約208億円の返済が求められることは確実です。

 国が関係する案件であれば、その引き換えに補助金という形で国費を利用することができます。豊洲市場に対しては平成23年から26年度で卸売市場法に基づき、建設費の一部として交付金を受け取り、利用した経緯があります。

 豊洲市場への移転を拒否し、築地市場を再整備するということは「国が交付した資金で建設された施設を目的用途外にする」と主張することと同じです。豊洲市場の整備を目的に交付された国費の返還が求められるのは当然のことなのです。

 

ハードル3:築地市場の割高な運営コストと予算額で頓挫した再整備計画の正当性

 「築地で働く人のために割高な運営コストを容認し、総工費の見積もりで頓挫した再整備計画を実施する意味はあるのか」という点を東京都はシビアに判断しなければなりません。

 ちなみに、豊洲と築地の年間コストは以下のとおりです。

  • 豊洲市場のコスト:年間77億円
  • 築地市場のコスト
    • 現状:年間84億円
    • 追加保証を含めた予想値:年間100億円超

 もし、築地市場再整備派の意見を採用するなら、運営コストは毎年約30億円は余分にかかることになるのです。築地の業者は自分たちの “利権” を守れるという恩恵を受けることができるでしょう。

 しかし、税金を払う側にいる都民が享受できるものはありません。それに加え、築地市場の再整備を求める人々は「1991年から96年までの建て替え工事で400億円の改修費が投じられ、総工費の見積もりが3400億円となって計画が頓挫した」ことを都合よく忘れているとしか思えません。

 

 もちろん、築地市場の再整備が行われる可能性はゼロではありません。ただ、実行するためのハードルがとてつもなく高いだけなのです。

 国政与党・自民党が主導権を持つ農水省に『中央卸売市場整備計画』の変更を容認させ、国から受けた交付金(約208億円)を利子付きで満額返済する。その上で、築地市場再整備に要する数千億円規模の費用負担を都民に理解してもらえば可能となります。

 ですが、一方的な税負担を強いることになることしか明らかになっておらず、このままでは “都民ファースト” とはかけ離れた都政となるでしょう。

 築地市場の一部業者が「安心」するために、年間30億円近くも運営コストとして多く費やされ、数千億円規模の整備を負担しても問題ないと考える “気風の良い江戸っ子” がどれだけ存在しているのかに注目と言えるのではないでしょうか。