「安倍首相の新聞を読めとの答弁は許せない」と頭に血が上っている人は長妻議員の質問内容を確認すべき

 5月8日に行われた衆議院予算員会で安倍首相が行った答弁に批判している人々がいます。

 憲法改正の意志を明確にした安倍首相に対し、長妻議員(民進党)が真意を確認した際の質疑が発端となりました。ただ、安倍首相による「読売新聞をよく読むように」との発言があったというニュースだけで批判している人は長妻議員による質問の内容を確認すべきでしょう。

 なぜなら、長妻議員は「自分は読解力がありません」と白状していることになってしまっているからです。
衆議院インターネット審議中継

 

1:衆議院予算員会(5月8日)の書き起こし

長妻昭議員(5:01:10 〜):

 次にですね、自衛隊、まあ憲法の問題でございますけれでも、総理がですね、私からするとちょっと唐突感があった訳でございますけれども、2020年までに新憲法施行というふうにおっしゃった訳でございますが、これの真意をおっしゃっていただければと思います。

 

安倍首相(5:01:30 〜):

 私はこの場には内閣総理大臣として立っている訳でございまして、予算委員会は政府に対する質疑という形で議論が行われる場であろうと。こう思う訳でありまして、各党が憲法における議論する場が設けられているのは憲法審査会だろうと。このように考えている訳でありまして、そこでご議論をいただきたいと思う次第です。

 私が第19回公開憲法フォーラムにおけるビデオメッセージ等を通じて自民党総裁として憲法改正についての考えを公にしたのはですね、国会における政党間の議論を活性化するためのものでございます。御党の細野議員も建設的な提案をされているところでありますが、大いに国会・両院の憲法審査会において、各党間でぜひ議論をしていきたいと考えているところでございます。

 

 

長妻昭議員(5:10:30 〜):

 例えば9条憲法草案の国防軍とか、あるいはですね、『公共の福祉』という文言をですね、すべて『公益および公の秩序』に変えるとか、あるいは憲法97条の基本的人権の尊重の条文をばっさり全部削除すると。

 こういう自民党の憲法草案についても総理と議論しましたけれども、今申し上げた3つの観点については取り下げると。自民党憲法草案の今の主要な3点については取り下げるとこういう認識でよろしいのですか。

 

安倍首相(5:11:00 〜):

 繰り返しになるのですが、私は内閣総理大臣として立っており、私が答弁する義務は内閣総理大臣として義務を負っている訳であります。自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、ぜひそれを熟読していただいてと。

 党総裁としてそこで述べている訳ですから、党総裁としての考えはそこで知っていただきたい。ここで党総裁としての考えを述べるべきでないというのが私の考え方でございますから、そこで自民党総裁として知っていただく。あるいはビデオで述べている訳でございます。

 そこで言わばですね、今、長妻委員は疑問が湧いているとのことでございますが、しかし、これは憲法審査会でご議論いただくということであります。

 それとまさにこれは自民党の中でですね、すでに議論してできあがったものが現行の自民党の改正草案でございます。これは谷垣総裁時代に作ったものでありまして、これが歴史的な自民党の公式的な考え方であります。

 そこでですね、言わば、先ほどなぜ私が新聞等を熟読していただきたいかとこのように申し上げた。しかし、それが発端ですから。発端で質問した訳でしょ?その新聞記事と言わばビデオメッセージを基に質問をされている訳でありますから。しかし、そこに自民党総裁として考えは述べている訳でありまして、草案との説明もしている訳です。

 

2:安倍首相の立場は鮮明

 まず、安倍首相の立場を確認しておく必要があります。なぜなら、安倍首相は公人として3つの顔があるからです。

  1. 山口4区選出の衆議院議員
  2. 内閣総理大臣
  3. 自由民主党総裁

 そして、予算委員会には『内閣総理大臣・安倍晋三』という立場で出席しています。これは長妻議員からの質問(5:10:30 過ぎ)に対する答弁からも明らかであり、その立場を批判することはできません。

 「憲法改正を議題にするなら、憲法審査会ですべき」との姿勢を明確にしていることに問題はないのです。

 

3:安倍首相が予算委員会で憲法改正に対する発言を控える理由

 自民党の総裁でもある安倍首相が予算委員会で「内閣総理大臣として出席している」と繰り返し発言し、憲法改正に対する答弁を行わないのには理由があります。それは憲法99条に次のような文言があるからです。

 第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 要するに、憲法を尊重・擁護(≒ 護憲のスタンスを採る)する義務が首相を含めた国務大臣にはある訳です。もし、安倍首相が予算委員会で憲法改正に前向きな自身の見解を述べようものなら、野党やマスコミは「憲法99条に違反している」と大騒ぎすることでしょう。

 ただ、この手法は安倍首相に見透かされているから「内閣総理大臣として出席しているため、改憲に前向きな自民党の総裁として見解は述べない」と答弁を一貫されることになるのです。

 

4:バカにされていることに気づいていない長妻議員のお粗末さ

 谷垣総裁時代に作成された『自民党憲法草案の内容』と『安倍首相の改正方針』には違いがあると指摘し、「自民党の憲法草案を取り下げるのか」と長妻議員は質問しました。

 この質問で長妻議員は能力の低さを露呈しているのです。

 安倍首相が憲法改正の方針を明確に報じたのは『読売新聞のインタビュー』です。長妻議員が “読売新聞の記事を読んでいるから” 具体的な質問ができるのであり、そこに自民党総裁として憲法草案に対する見解が示されていることを見落としていると暗に答弁で示されたのです。

 これは「長妻議員は読解力が乏しい」と嫌味を言われていることと同じであり、まともな論戦をするために不可欠な読解力が足りていないことを意味しているのです。

 

5:第97条の『基本的人権の尊重』は削除して問題ない

 護憲派の奇妙なことは憲法97条の基本的人権に固執していることでしょう。「自民党草案で削除される」と騒いでいますが、『基本的人権の尊重』は憲法11条に記載されていると学校で習うものです。

 第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。


 第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 「同じ内容を憲法に重複記載する意味はあるのか」という視点で論じなければなりません。

 『基本的人権の尊重』がカバーする範囲は憲法11条と97条で異なるのでしょうか。「自民党の憲法草案で97条の『基本的人権の尊重』が削除される」という主張は耳にしますが、「11条の方も削除されている」という主張は皆無です。

 これは明らかに護憲派の “レッテル貼り” に過ぎません。なぜなら、自民党の憲法草案にある第11条は以下の文言になっているからです。

 第十一条 国民は、全ての基本的人権の享有をする。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。

 「過去幾多の試練に堪えてきた」という文言が消えることに不快感があるなら、そう主張すれば良い話です。一部分だけを切り取り、批判することは論外と言えるでしょう。

 

 個人的に自民党草案の中で誰からも評価されると考えているのは憲法7条と73条にある「左の国事に〜/左の事務を〜」が「次に掲げる〜」に改正すると表明されていることです。

 これにより、縦書きしかできなかった憲法が横書きにも対応できることになり、インターネットを経由した際の不自然さが解消されるからです。自民党草案を皮肉したいのであれば、「評価できるのは現行憲法の7条と73条を改正し、横書きにも対応できる表現にしただけだ」と言うべきでしょう。

 正攻法で上回ることが十分可能な政権な訳ですから、正面から堂々と議論し合えば良いのです。揚げ足をとろうとする戦法ばかりを使っていると、「議論で勝てないから、くだらない言いがかりをつけているのだ」と有権者に見られることに直結していることを野党やマスコミは自覚すべきなのではないでしょうか。