イギリス総選挙:与党・保守党が過半数割れも、協力する政党の存在で政権維持には成功
イギリスで行われた総選挙では与党・保守党が過半数の議席を維持できなかったと NHK が伝えています。結果論としては「解散に踏み切る必要はなかった」と言えるでしょう。
過半数を割り込んだ理由は「保守党の出した政策が嫌われたため」と見られていますが、北アイルランドの地域政党が保守党政権に協力する姿勢を示したことで政権は維持されることとなりました。今後は EU 離脱交渉の行方に注目する必要があります。
イギリスの総選挙では、与党・保守党が過半数の議席を確保できなかったものの、メイ首相は新たな政権を発足させてEU=ヨーロッパ連合からの離脱に向けた交渉を予定どおり始める方針です。ただ、与野党からメイ首相の責任を問う声が強まっていて、EUとの交渉を思惑どおりに進められるかは不透明な情勢です。
総選挙の結果、議席数は以下のようになりました。
- イギリス議会(定数:650)
- 与党:328
- 保守党:318 *
- 民主統一党:10
- 野党
- 労働党:262
- スコットランド民族党:35
- 自由民主党:12
議会の過半数は326なのですが、シン・フェイン党は女王への忠誠を誓うことを拒否しており、議会に出ることはありません。そのため、今回の総選挙でシン・フェイン党が獲得した7議席を引いた643議席が実際の定数となり、実際の過半数は322となります。
その数字にも保守党は単独で届いていないため、北アイルランドの地域政党・民主統一党からの支持は政権運営に不可欠と言えるでしょう。
『年金と福祉の死守』+『大学無償化』のバラマキ政策で票を得た労働党
圧勝と見られていた保守党が過半数を獲得できなかった理由はマニュフェストが嫌われたためでしょう。保守党は「高齢者ケアの支出削減」を掲げるなど、緊縮に舵を切る方向性の強い政策を掲げていたからです。
一方で労働党は年金・福祉の支出削減には手をつけず、『大学無償化』を掲げて選挙戦に挑みました。
予算の当てすらない無責任なものでしたが、政権を採る可能性が極めて低い政党なら無責任な政策を掲げたとしても問題になることはほとんどありません。実現性が不可能な政策でも、票に結びつけば、将来の支持基盤になる程度の認識だったと考えられます。
リベラルのバラマキによる赤字財政を保守が緊縮財政で立て直すことは馬鹿げている
どこかのタイミングで労働党が訴えるバラマキ政策で勝てるタイミングが来ることでしょう。しかし、そのための予算がない訳ですから、赤字国債などで支払いが将来に先送りされることは確実です。
そして、“稼ぐこと” より “分配すること” で経済は良くなると信じた人々が政策をするのですから、稼げる力のある企業・個人から順に離脱していき、分配することが限界に達することになるのです。その結果、国に残されるのは多額の借金だけである場合がほとんどです。
左派リベラル政権で「財政状況を好転させた」として称賛された政権がどれほど存在したでしょうか。存在していれば、リベラル寄りのマスコミが “お手本” として度々称賛しているはずです。
それが皆無な訳ですから、保守系の政党が緊縮財政という形で嫌われる政策を実施して財政の健全化に奔走するという形が比較的長期で続くのです。福祉に予算を継続的に回したいのであれば、無責任なことを要求する左派を排除し、現実的な範囲内に収めるリベラル政党でなければ地獄へ直行する結果になることを自覚する必要があるでしょう。
民主統一党(北アイルランド)は保守党の考えに近い
保守党政権に協力することを表明した北アイルランドの民主統一党ですが、政治的主張は保守党と近いものがあります。
名称で示されているように「北アイルランドをイギリス連邦に統一すること」が掲げられており、EU からの離脱に賛成しています。EU 離脱に反対するシン・フェイン党とは真逆であり、EU 離脱の方針を支持することでしょう。
希望としては「経済に悪影響が出る恐れの強いハードブレグジットはなるべく避けて欲しい」というものであり、逆に「北アイルランドを EU との特別地域に指定することは絶対に容認できない」というスタンスでしょう。
イギリス(グレートブリテン島)と同じ待遇が用意されているのであれば、民主統一党は保守党の別働隊として働くことが濃厚であると思われます。
今回のイギリス総選挙がブレグジットの加速度を弱めることになったとしても、離脱そのものを撤回するまでには至らなかったことは事実です。ヨーロッパの混沌はこれからが本番と言えるのではないでしょうか。