東京五輪・自転車ロードレースの都内開催案はそもそも国際競技団体からの不評を買うプランだった

 東京オリンピックで開催される自転車ロードレースとトライアスロンのコースが変更されると読売新聞などが伝えています。

画像:コース変更プランが報じられた自転車ロードレースとトライアスロン(読売新聞より)

 トライアスロンの方は「レインボーブリッジから五輪マークを掲げるプランが狂う」との懸念の声が出ていますが、自転車ロードレースは現行案が不評を買う内容だったのです。そのため、代替案の方が国際競技団体から歓迎されることは言うまでもないことです。

 

 自転車のロードレースのコースをめぐっては、起伏や景観のよさを求めた国際競技団体の要望を受けて、組織委員会が都内で検討していた当初の計画を見直し、富士山周辺などを候補地に検討を進めていました。

 そして、先月31日から今月2日まで3日間かけて、国際競技団体の担当者とともに候補地を車で視察し、高い評価を得たということです。

 その結果、スタートをオリンピックに向けて建設される東京・調布市の「武蔵野の森総合スポーツプラザ」とし、神奈川県相模原市を経由したあと、起伏の激しい道が続く山梨県道志村を経て、山中湖を通り、ゴールを静岡県の富士スピードウェイにする案で固めたことが、関係者への取材でわかりました。

 

 読売新聞は『現行案』の問題点を「都内物流網の分断」と指摘しています。しかし、NHK が伝えたニュースでは国際競技団体(UCI)が懸念していた内容は「起伏」と「景観の良さ」であることが明らかです。

 もちろん、大会組織委員会には「都内物流網の分断」、「起伏」、「景観の良さ」の懸念が各所から出ている『現行案』を強行する権限はあります。しかし、一切の言い訳や責任転嫁ができない状況で押し通すだけの業務遂行能力があるとは思えません。

 むしろ、なぜ自転車ロードレースが都内(しかも23区内)だけで成り立つと考えたのかが不思議なことと言えるでしょう。

 

起伏のないコースではメダル候補が限定されすぎてしまうという問題がある

 国際競技団体が最も懸念を表明したのは「起伏の少なさ」でしょう。なぜなら、メダル候補が限定され過ぎてしまい、競技としての魅力が低下してしまうからです。

 『現行案』で開催された場合、メダル争いに絡めるのはスプリンターと呼ばれる競輪選手のようなタイプだけに限定されてしまいます。

 ツール・ド・フランスで総合優勝するような知名度の高い選手が「自分向きのコースレイアウトではない」と敬遠するため、有名選手が出場自体を見合わせることは国際競技団体にとって起伏の少ないコースは絶対に認めたくない設定条件なのです。

 

起伏の少ないコースで金メダル候補となる日本人選手がいないなら、『変更案のコース』を承認すべき

 『現行案』を維持したいのであれば、そのコースで “金メダル候補本命” と言われる日本人選手がいることが絶対条件です。この場合は国際競技団体からの注文を無視し、都内物流網への影響も関係各所に理解してもらうために汗をかく理由になります。

 しかし、その条件を満たす日本人選手はいないのですから、『現行案』に固執する意味はありません。

 したがって、スプリンターと呼ばれる選手が勝てるかどうか分からない “荒れそうなレース展開” の要因となる「起伏のあるコース」を用意することが重要となるのです。

 おそらく、『現行案』を作成した大会組織委員会を除くステークホルダーがコース変更を歓迎しているものと思われます。

 

ゴール手前10キロほどに山頂がある絶妙なレイアウト

 NHK が報じた代替案として検討されているルートは「神奈川県相模原から国道413号線を通り、山梨県道志村を通過し、山中湖を経由して富士スピードウェイにゴールする」というものです。

 山伏峠まで約20キロをダラダラと登り続けるルートで、山頂手前の約4キロの平均勾配が 7% 弱。そこから下り+平坦でゴールまで約10キロというレイアウトは国際競技団体が喜ぶコース設定と言えるでしょう。

 起伏のないコースで強いスプリンターは登りでは自分の体重がマイナスに働き、遅れることが予想されます。そのため、登りに強いツール・ド・フランスで優勝するような選手は山伏峠の登りで加速し、リードを築いてダウンヒル区間に入るはずです。

 しかし、山伏峠は “ヒルクライム初心者におすすめの坂道” として知られているため、有力スプリンターを完全脱落させるほどの力はありません。そこでスプリンターは登りでの遅れを最小限に止め、ゴールまでの下りと平坦区間で協調し、先行集団を捕まえて集団スプリントに持ち込めば、金メダルの可能性が残されるというチャンスが生まれるのです。

 多くの選手にメダルのチャンスがある訳ですから、現行案よりも代替案の方が良いとの評価を受けることになるでしょう。

 

 少なくとも、自転車ロードレースは代替案の方が日本国内の物流網を寸断することもなく、日本人選手がメダル獲得(もしくは入賞)する可能性が高くなります。

 特に、コースを下見し、テクニックで差が出る下り区間を活かすことができるという恩恵をフルに活用しなければなりません。晴れていれば、富士山がよく見える富士スピードウェイにゴールする訳ですから、「富士山を背景にした表彰式」を行うことで大きな宣伝となることをプラスに評価する必要があるのではないでしょうか。