日本ハムが札幌ドームに支払っているであろう金額を試算してみた

 日本ハムが札幌ドームからの移転を決めましたが、その要因は「札幌ドームの利用料が高額すぎたこと」です。

 ファイターズが札幌ドームに支払っている実際の金額は公開されていません。しかし、公開資料からどのぐらいの金額であるからを推測することは十分に可能です。

 では、2014年以降の3年分を求めてみることにしましょう。

 

1:ファイターズは集客面で多大な貢献をしている

 札幌ドームが収益を上げるのは「イベント」が行われた時がほとんどです。「イベント」が行われなければ、設営・撤去などでの利用もありませんし、集客も行われません。また、ドーム内の物販や飲食、広告は「イベント」に連動していることも理由と言えるでしょう。

 日本ハムファイターズ、コンサドーレ札幌、その他の3項目によるイベント開催日とイベント来場者の割合をグラフ化すると次のようになります。

画像:札幌ドームのイベント日数と動員数の割合

 

 ファイターズは「イベント日数」で全体の半分、「観客動員数」では 60% 超と “大黒柱” となっています。具体的な数字で示すと、ファイターズが “キラーコンテンツ” であることがより浮き彫りとなります。

 

2:「ファイターズのポストシーズン観客動員数」>「コンサドーレの年間観客動員数」

 ファイターズの2014年以降の年間観客動員数は下表のとおりです。

表1:日本ハムファイターズの観客動員数(札幌ドーム)
  観客数 試合数 1試合平均
'14年
(3位)
オープン 71,526 7 10,218
ペナント 1,583,424 58 27,300
合計 1,654,950 65
'15年
(2位)
オープン 93,720 6 15,620
ペナント 1,638,407 59 27,770
CS 114,477 3 38,159
合計 1,846,604 68
'16年
(優勝)
オープン 100,345 7 14,335
ペナント 1,806,205 60 30,103
CS 184,913 5 36,982
日本シリ 121,735 3 40,578
合計 2,213,198 75

 チームの成績とレギュラーシーズン(ペナント)の観客動員数は比例関係になると言えるでしょう。それに加え、リーグで2位以内で終えるとクライマックスシリーズも開催されるのです。

 2016年にコンサドーレ札幌が札幌ドームで行った主催試合の観客動員数は30万人弱。しかし、ファイターズはクライマックスシリーズと日本シリーズの計8試合でそれを超える動員数を記録しています。

表2:コンサドーレ札幌の観客動員数(札幌ドーム)
  観客数 試合数 1試合平均
2014年
(J2 : 10位)
201,423 17 11,848
2015年
(J2 : 10位)
235,419 19 12,390
2016年
(J2 : 優勝)
277,965 18 15,442

 札幌ドームにとって、最重要クライアントはファイターズであることは明らかです。ところが、札幌市は要望に向き合わなかったのですから、ファイターズが移転に傾くことは当然と言えるでしょう。

 厄介なことに、札幌ドームの利用料はコンサドーレからも「高すぎる」との批判が出ているのです。助成金があることに加え、日本ハムが定価を払っていたことで “誤魔化し” が効きましたが、移転を決意したツケを札幌市が払うことになるのはこれからが本番なのです。

 

3:ファイターズが札幌ドーム側に支払った金額

 「株式会社札幌ドーム」の決算情報は公開されています。

 ファイターズからの収益がどのぐらいであるかは明かされていませんが、利用料が公開されているため、“絶対に支払っている金額” を計算することは可能です。ちなみに、「株式会社札幌ドーム」の主要事業と説明は次のとおりです。

  • 貸館事業:ドームなど施設の貸し出し
  • 商業事業:ドーム内での飲食・物販の管理運営
  • その他事業:広告収入など

 「商業事業」は観客動員数が多いほど、販売機会が多くなり、増収が見込めます。「その他事業」についても、クライマックスシリーズなどで広告の臨時収入があったことが記載されるなどファイターズの貢献度は大きいと断言できます。

 上述した内容はどちらも決算書で明記されているからです。もし、事実と異なる記載をしていれば、虚偽記載として市長や担当者のクビが飛ぶ可能性がある訳ですから、否定できない事実と言えるでしょう。

 

 3ー1)2014年の売上高

 「株式会社札幌ドーム」の2014年・決算は以下のとおりです。

  • 売上高:33億7700万円
    • 貸館事業:16億1000万円
    • 商業事業:9億6600万円
    • その他事業:10億7500万円

 なお、ファイターズが確実に支払っているであろう球場使用料は次のように計算することができます。

  • 利用料(クローズドアリーナ):7億365万2400円
    • オープン戦:800万円X7試合=5600万円
    • 公式戦:800万円X58試合=4億6400万円
    • 2万人超過分:400円X459,131=1億8365万2400円
  • 利用料(他の施設):175万円X65試合=1億1375万円
    • 室内練習場:7万円
    • 大型映像装置:35万円
    • アリーナ放送設備:10万円
    • 中継放送用設備:100万円
    • 貴賓室:23万円

 これは “試合が行われた当日に必要となった費用の一部” です。それでも8億円は超えています。

 実際には「トレーニング室」、「特別室」も試合当日は抑えていることでしょう。試合前日や屋外の芝生(オープンフィールド)でアップする場合にも費用は必要となる訳です。

 また、『商業事業での日ハム貢献分』と『広告などでの日ハム貢献分』がざっと6割と見積もったとしても、20億円を大幅に超える貢献をしていることは確実と言えるはずです。

 

 3ー2)2015年の売上高

 「株式会社札幌ドーム」の2015年・決算は以下のとおりです。

  • 売上高:38億9400万円
    • 貸館事業:17億4900万円
    • 商業事業:9億7300万円
    • その他事業:11億4600万円

 なお、ファイターズが2015年に確実に支払っているであろう球場使用料は次のように計算することができます。

  • 利用料(クローズドアリーナ):7億5496万6000円
    • オープン戦:800万円X6試合=4800万円
    • 公式戦:800万円X59試合=4億7200万円
    • 2万人超過分:400円X472,938=1億8917万5200円
    • CS:800万円X3試合=2400万円
    • 2万人超過分:400円X54,477=2179万800円
  • 利用料(他の施設):175万円X68試合=1億1900万円
    • 室内練習場:7万円
    • 大型映像装置:35万円
    • アリーナ放送設備:10万円
    • 中継放送用設備:100万円
    • 貴賓室:23万円

 2015年の試合当日に支払ったことが確定的な金額は8億7396万円。これに『商業事業での日ハム貢献分』と『広告などでの日ハム貢献分』が加わりますし、試合日以外の支出も「株式会社札幌ドーム」の売上高として記録されることになります。

 2014年と同様に20億円を優に超える金額になっていることが予想され、「株式会社札幌ドーム」の売上高の 60% は占めているのではないかと想像できます。

 

 3ー3)2016年の売上高

 「株式会社札幌ドーム」の2016年・決算は以下のとおりです。

  • 売上高:41億4300億円
    • 貸館事業:17億5400万円
    • 商業事業:11億4900万円
    • その他事業:12億1300万円

 なお、ファイターズが2016年に確実に支払っているであろう球場使用料は次のように計算することができます。

  • 利用料(クローズドアリーナ):9億786万800円
    • オープン戦:800万円X7試合=5600万円
    • 公式戦:800万円X60試合=4億8000万円
    • 2万人超過分:400円X623,004=2億4920万1600円
    • CS: 800万円X5試合=4000万円
    • 2万人超過分:400円X84,913=3396万5200円
    • 日本シリーズ:800万円X3試合=2400万円
    • 2万人超過分:400円X61,735=2469万4000円
  • 利用料(他の施設):185万円X75試合=1億3875万円
    • 室内練習場:7万円
    • 大型映像装置:35万円
    • サブスコアボード:5万円
    • アリーナ放送設備:10万円
    • 中継放送用設備:100万円
    • 貴賓室:23万円

 2016年はファイターズが札幌ドームをフル稼働させた1年でした。レギュラーシーズンを首位で終え、日本シリーズも開催したこともあり、試合当日の支出は少なく見積もっても10億4661万円です。

 そこに『試合当日以外の支出』、『商業事業での日ハム貢献分』と『広告などでの日ハム貢献分』が加算される訳ですから、30億円前後の額をファイターズは支払っていることが予想されます。

 

4:2016年10月の条例改正による実質的な値上げはファイターズに「出て行け」と言っているに等しい

 札幌ドームがファイターズからの改善要望に難色を示し続ける中、札幌市は利用料の値上げに踏み切りました。これはファイターズに「出て行け」と言っていることと同じです。

 改善の要望を実行に移すことなく、逆に値上げをすれば心証は最悪です。ファールボールが当たって観客が失明したことで起きた裁判では日本ハムだけに賠償が求められる判決が高裁で下されています。

 ベースボール・スタジアムではありませんし、所有者が改装に乗り気でないなら、札幌ドームに残る理由を見つける方が困難なことです。“キラーコンテンツ” を追い出し、箱物だけが残るという地方自治体のツケを札幌市民が支払うことになることは確実なのではないでしょうか。