老朽化の著しい橋やトンネルが撤去されることはワイズスペンディング(=賢い支出)だ

 老朽化が進み、危険と判断された橋やトンネルが撤去される動きが進んでいると朝日新聞が伝えています。

 撤去となる主な理由は自治体が予算を捻出できないことです。維持費を確保できない橋やトンネルが優先度の低い順で撤去となるのは止むを得ないことと言えるでしょう。

 

 老朽化した危険な橋・トンネルの存在が各地で判明し、撤去などの動きが加速している。国と自治体への取材では、2014年度に全国で始まった点検で、今年4月までに340カ所が補修や撤去など緊急措置の必要があると判定され、うち73カ所が撤去されたか撤去予定だった。財政難にあえぐ自治体が補修などで維持することを見送るケースが目立つ。

 

 メンテナンスをすれば、建設した橋やトンネルを長く利用することはできます。しかし、それは寿命を伸ばしているだけであり、建設物の寿命(=耐用可能年数)はいずれ訪れます。

 全国で問題となっているのは「寿命に達しつつある橋やトンネルをどうするのか」という点だと言えるでしょう。

 

1:どこまで利便性を確保するのか

 橋やトンネルが建設された理由は要望(=ニーズ)があったからです。地元住民などからの要望に応える形で建設が行われ、利用されて来たのですが、寿命を迎えたことで大きな転換点に差し掛かっていると言えるでしょう。

 橋を架け替えたり、トンネルを再掘削するには多額の予算がかかります。

 ただ、ほとんどの自治体が予算を捻出する余力を持っておらず、撤去する選択をせざるを得ない状況となっているのです。地元住民にとっては利便性が損なわれる結果となりますが、無い袖は振れません。

 これは政治的な問題ではなく、経済的な問題なのです。

 

2:地方にも、国にも余力はない

 現在、寿命を迎えつつある橋やトンネルの多くは高度経済成長期に建設されたものでしょう。50年が過ぎると老朽化が浮かび上がり、対応を決断しなければならない案件となります。

 経済成長が続いていた時代では国に “陳情” するなど、建設費を地元に引っ張るための有効手段は数多く存在しました。しかし、国家予算の半分以上が医療・年金といった社会保障費に回されている状況では予算を付けること自体がままならないことなのです。

 そうなると、限られた予算額をどう効果的に使うのかが重要になります。

 「橋やトンネルの維持・管理を断念する」ということも重要な選択肢となるでしょう。数百メートル圏内に別の橋やトンネルが存在するのであれば、寿命を迎えた施設(橋・トンネル)を維持する動機が財政難に苦しむ行政サイドにはなくなります。

 この点は住民側の理解しなければならないことと言えるでしょう。

 

3:災害時緊急用道路など重要度の高い橋やトンネルに資源を集中すべき

 住民からの反発は起きますが、必要性の低い橋やトンネルは放棄を前提にすべきです。補修の予算は限られていますし、点検作業にも費用がかかるからです。

 経済政策がうまく機能し、公共インフラに投じる予算があるなら、現状で存在するすべての橋やトンネルを維持することはできるでしょう。しかし、使える予算には制限がある上、「社会保障費や教育費に費やすべき」との主張が強いことが実状なのです。

 寿命を迎える橋やトンネルは田舎だけの問題ではありません。都市部の橋やトンネルも寿命が迫っているのです。東京では首都高の高架部分の老朽化対策に否が応でも取り組まなければなりません。

 地域ごとに優先度の高いルートを選別し、それに応じた対策を実施しなければならない時期に来ていると言えるのではないでしょうか。