フランス、軍のトップがマクロン大統領の国防予算削減案に抗議に辞任

 フランス・マクロン大統領が財政再建を目的に国防予算の削減を打ち出したことに対し、軍のトップが抗議の意志を示す形で辞任したと AFP 通信が伝えています。

画像:防衛費削減を打ち出したマクロン大統領

 NATO 加盟国であるフランスは GDP 比で 2% の軍事費の拠出を求められていますが、フランスはそれに達していません。その状況で「国防予算を削減する方針」を打ち出したのですから、反発が起きるのは当然と言えるでしょう。

 

 フランスのエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領と防衛費削減をめぐって対立していたピエール・ド・ビリエ(Pierre de Villiers)統合参謀総長(60)が19日、辞任を表明した。

 ビリエ氏は声明を発表し、辞任の理由について「国と国民の保護を保証するために必要だと考える」形で軍の指揮を執ることが可能とは、もはや思えなくなったためと明らかにした。

 ビリエ氏は先週、議会での委員会において、防衛費8億5000万ユーロ(約1100億円)を削減する方針により、仏軍が「めちゃくちゃにされる」のは容認できないと発言。同氏とマクロン氏の対立が明るみに出た。

 

 

1:フランスの GDP と国防予算

 フランスの GDP と国防予算は外務省が公表している基礎データから確認することが可能です。

表1:フランスの GDP と国防予算
  2016年 改正案
GDP 2兆4630億ユーロ
国防費 423億ユーロ
(対GDP:1.71%)
414.5億ユーロ
(対GDP:1.68%)

 フランスの GDP(2016年)は2兆4630億ユーロ。国防費は約423億ユーロと掲載されており、対 GDP 比では 1.71% です。

 これは国防費(=軍事費)の支出を対 GDP 比で 2% を求める NATO の要求を下回っています。「2% の支出」にはフランスも合意しており、防衛費の削減を打ち出したマクロン大統領の方針は明らかに矛盾していると言えるでしょう。

 

2:トランプ政権に “NATO 離脱の口実” を与えたマクロン大統領

 ビリエ氏が職を賭してマクロン大統領の方針に反対したことは国防の責任を担う上で当然です。欧州諸国は NATO に加盟していますが、国防費の予算で「対 GDP 比で 2%」を下回っている国がほとんどです。

 そのことに対し、アメリカ・トランプ大統領が露骨に不快感を示し、「同盟打ち切りも選択肢にある」と明言しています。

 ヨーロッパ側が「GDP 比で 2% に引き上げるための具体案を示す」ことで取りまとめたにもかかわらず、フランス大統領自らが反故にする時点で論外です。

 “フランスのボス” はマクロン大統領でしょうが、NATO のボスはフランスではありません。実質的なボスであるアメリカ・トランプ大統領から「見解を変える(=対 GDP 比で 2% を支払う)か、NATO からアメリカの離脱を希望すると明言するかのどちらかだ」と迫られることになるでしょう。

 

3:マクロン大統領はツール・ド・フランスを激励中

 ビリエ統合参謀総長が辞意を表明した19日にマクロン大統領はツール・ド・フランスの観戦に訪れ、フランス人選手や現時点での首位に立つクリス・フルーム選手を表彰式で激励しています。

 辞任のタイミングは偶然でしょうが、あまり良い印象を抱かれないと思われます。“ボス” の一存で決定できるのは内政だけに留めるべきであり、相手との信頼関係が必要となる外交では強引な手法は思わぬ反発を招く要因になる可能性があるのです。

 財政再建を理由に国防費を削減するのであれば、NATO との関係悪化は避けられません。拠出を約束したにもかかわらず、国内の事情で一方的に反故にすれば、他国と軍事面で信頼関係が薄れるという悪影響を受けることになります。

 そのようなことを踏まえて、財政再建案を提示する必要があると言えるのではないでしょうか。