右脚に不安を抱えるサニブラウンのリレー起用を見送る決断は高く評価されるべき

 最年少で世界陸上・男子200メートル決勝に進出したサニブラウン・ハキーム選手をリレーメンバーとして起用することを見送る方針を代表監督が示していると読売新聞が伝えています。

 右太ももの状態に懸念がある主力選手の起用を見送る方針を示した伊東監督の姿勢は評価されるべきでしょう。出場強行が理解されるのは「実績を十分に積み重ねた選手が引退試合と明言している場合のみ」と言えるからです。

 

 ロンドンで開催中の陸上・世界選手権で、日本代表チームの伊東浩司監督は10日、12日に行われる男子400メートルリレーについて、右脚を痛めているサニブラウン・ハキーム(東京陸協)の起用を見送る方針を示した。

 10日の男子200メートル決勝後にサニブラウンを指導するコーチと日本代表強化スタッフが話し合った結果として、伊東監督は「あまり無理をさせたくないのが、双方の今のところの考え」と明かした。

 

 18歳のサニブラウン選手に現時点で無理をさせる必要はありません。“伸びシロ” が多く存在する選手の1人であり、怪我を悪化させることでトレーニングから遠ざかる時期を作ってしまうことの方が育成という視点で問題となるからです。

 ただ、「選手の成績」で評価されることがほとんどの代表監督が “自らのクビが危うくなる決断” を下していることに留意しておく必要はあるでしょう。

 

1:「サニブラウンの将来 > 代表監督の座」との判断をした伊藤監督は評価されるべき

 代表監督の辛い点は「選手が残した成績」でほとんど評価されてしまうことでしょう。成績不振であれば、代表監督が更迭されるのはそうした理由があるからです。

 当たり前と見られる評価システムですが、問題も含んでいます。

 それは「負傷を抱える有力選手の起用を見送った」という点が全く評価されないことです。この状況では成績を残せる可能性の高い選手を “多少無理してでも起用せざるを得ない” と流されることになるからです。

 負傷離脱によって選手の成長が足止めされる結果になってしまうのですから、そのリスクを除外する決断を下した代表監督の判断は高く評価されるべきと言えるでしょう。

 

2:選手の “美談” を報じるより、自己ベストを出した選手を称えるべき

 「感動ストーリー」が売れるという事情もあるでしょう。しかし、これではアスリートが消耗されるだけで、スポーツが文化として根付く要因にはなりません。

 “血染めのボール” や “骨折してても、〇〇” という話題より、大会で自己ベストや日本新記録を出した選手の成績を称賛する記事が多数派を占めるべきなのです。「大舞台で自らのベストを尽くし、結果を出した選手」にスポットが当たらない状況は是正しなければなりません。

 ただ、マスコミは『絵』を欲する習性が強すぎるため、スポーツ選手や関係者からの要望を聞き入れることはないでしょう。そのため、Youtube や SNS を自分たちで上手く活用し、ダイジェスト映像などと使って直接アピールする手段を確立させることが重要となります。

 一般人から見れば、代表選手のポテンシャルはどの競技でもスバ抜けています。「それをどれだけ魅力的に伝えることができるのか」という点に注力する必要があると言えます。

 

 選手が最高のパフォーマンスを発揮することができる環境を整えるのが監督・コーチ、協会の仕事なのです。自らの保身のために選手に無理を強いることにピリオドを打たなければなりません。

 負傷で選手生命が絶たれることは避けなければならないことであり、予防策を採ろうとしている伊藤監督の姿勢は支持されるべきです。有力選手には少しでも長い期間に渡って、トップコンディションを維持し、成績を残してくれることが全員にとって大きな恩恵が得られることを自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。