イギリスの EU 離脱交渉:分担金清算で折り合いがつかず、こう着状態が続く

 「イギリスが EU から離脱することに対する交渉がベルギー・ブリュッセルで行われたものの、分担金の清算に対する溝が埋まらず、遅れが生じそうだ」と NHK が伝えています。

 イギリスと EU が双方ともに自らの立場を貫いたため、歩み寄りが皆無だったと言えるでしょう。「どちらが先にカードを切るのか」が次なる注目点です。

 

 EU側が交渉の第1段階だとする、イギリスが支払うことになっていた巨額の分担金の清算や、イギリスが陸地で接するアイルランドとの国境をどのように管理するかなど離脱の条件について話し合われました。

 協議最終日の31日、EUのバルニエ首席交渉官は双方の歩み寄りはほとんどなく、重要な進展はなかったことを明らかにしたうえで、交渉の第2段階となる離脱後の関係をめぐる協議については、「議論を始めるようEUの首脳らに提案するには程遠い」と述べて、次の議論に入る状況ではないという認識を示しました。

 これに対してイギリスのデービスEU離脱担当相は、「EUにはより想像力に富んだ柔軟な手法を求める」と述べ、EUの姿勢は強硬だと批判しました。

 

 8月31日まで行われていた協議では、互いに要求する内容を全面的に押し通すものでした。交渉は両者の間で妥協点を見出すものであり、“高めの要求” をすること自体は不思議ではありません。

 相手が引けば、それだけ優位になる訳ですから、最初から譲歩する理由はどこにも存在しないのです。交渉が激しくなるのはここからだと言えるでしょう。

 

1:我慢比べの様相が強くなる

 EU にとっての最優先項目は「イギリスが支払う予定の分担金を確保すること」です。分担金の確保に失敗してしまうと、予算に巨大な穴ができるため、絶対に避けたいことだからです。

 もちろん、「ドイツやフランスを始めとする “持っている国” に対する分担金を上げる」という選択肢はあります。しかし、それを実行してしまうと、対象となった国で『反 EU』の声が高まってしまいます。

 その結果、“第2のイギリス” という形で EU から離脱する分担金拠出国が出てしまうと完全に本末転倒です。この問題をどう対処するかが EU 側の懸念事項と言えるでしょう。

 一方のイギリスにとっては「自由貿易協定の維持」が最優先項目です。「分担金の支払い義務を背負い、自由貿易協定が未発行」という事態が(イギリスにとって)最悪の状況であり、これを避けることが絶対条件となっているのです。

 両者の優先項目が異なるため、交渉は “我慢比べ” の色合いが強くなると言えるでしょう。

 

2:「自由貿易協定が発行しなければ、分担金は支払わない」との形で合意するだろう

 イギリスの持つ交渉カードを考えると、「分担金の支払いには自由貿易協定の発行が条件」と切り出してくるでしょう。

 EU 側が希望する分担金を支払っても良いが、「自由貿易協定の発行が離脱時に間に合わない場合は分担金の負担額を大幅に免除する」との “ギロチン条項” を組み入れてしまえば、イギリスにとっての最悪のシナリオは回避できるからです。

 EU は分担金の確保に躍起になっているものの、様々な理由で金額を引き下げてくることは想定済みでなければなりません。

 在英 EU 市民の立場を保証するよう要求しているとも伝えられていますが、そうしたリクエストをすることで「在英の EU 市民1人につき、〇〇ポンドが必要であり、分担金から相殺させてもらう」とのカウンターを受けることも想定しておく必要があるのです。

 ある程度の譲歩があると考えると、分担金の支払額が先に決定し、その際に支払い条件として自由貿易協定の発行が条件という形で落ち着くのではないでしょうか。両者ともにリスクを負担する形態であり、妥協点として適切なものと考えられるからです。

 

3:どちらが先に動くかが次回以降の交渉での焦点

 離脱交渉がこのまま睨み合いが続くようですと、遅れが生じることは明白です。その場合はどちらにとっても “最悪の結果” が待ち受けているだけに、何らかの動きをきっかけに交渉が本格化すると思われます。

 実際には交渉が進んでいるものの、メディアなど外野からの妨害を嫌い、双方が「相手側が譲歩の姿勢を見せようともしない」という形で煙に巻くという手法がすでに採られていることも十分に考えられます。

 具体的な進展状況が公に発表されるのはどのタイミングになるのかが次の焦点となるでしょう。そのためにはどちらかが先に状況を動かすためのカードを切ることが必須です。どういった動きが出るのかに注目と言えるのではないでしょうか。