自動車各社が中国で EV (電気自動車)の生産体制を強化するのは理にかなっている

 中国政府がガソリン車の将来的な販売禁止を検討していることを受け、自動車各社が EV (電気自動車)の開発・現地販売に力を入れ始めていると NHK が伝えています。

 自動車メーカーの決断は正しいものでしょう。大気汚染問題が深刻となっているヨーロッパ(特にフランス)や中国では『生存権』を確保するという意味でも電気自動車の普及に注力することは十分に考えられるからです。

 

 車の販売台数が日本の5倍以上の年間2800万台にのぼる世界最大の市場・中国では、政府が大気汚染対策としてガソリン車の販売を将来的に禁止することを検討するなど、電気自動車の普及を加速させています。

 このため、日本だけでなく、ヨーロッパなど世界の自動車メーカーが相次いで販売を強化する方針を表明しており、電気自動車をめぐる主導権争いが一段と激しくなりそうです。

 

 中国は共産党政権の強烈なトップダウン方式ですから、政府が「やる」と決めたら、目標を達成するために動けるという他の国にはない特徴が存在します。

 EV (電気自動車)は中国が抱える大気汚染問題を解決する有効な手段であるため、政府が本腰を入れることは必然的と言えるでしょう。自動車メーカーにとっては “中国のニーズ” に合致した製品を投入することができれば、世界最大の市場が取れることを意味しています。

 主導権を手にしたい政府と企業の思惑が一致しており、加速度的に事態が動く可能性があると見ておくべきでしょう。

 

1:ガソリン車の販売禁止が検討される理由は大気汚染問題の原因となっているから

 中国が EV に本腰を入れようとしている理由はフランスなどと同じく、(都市部での)大気汚染が深刻になっているからです。この問題を放置し続けると、遅かれ早かれ政権への批判という形で返ってくるため、対策を講じる必要があるのです。

画像:EV+原子力発電による大気汚染解決策

 フランスも中国も大気汚染がひどい時は都市部で交通規制を行い、車両を半減させる政策を採っています。これで一時的とは言え、大気汚染を緩和することができているのですから、「ガソリン車の総数を減らす政策」が大気汚染対策の根幹となります。

 そのため、化石燃料を使わない原子力発電所からの電気で駆動する EV (電気自動車)への切り替えが現実に検討されることになるのです。

 

2:EV が抱える課題

 もちろん、現状ではすぐに EV への乗り換えが一般ユーザーで起きることはないでしょう。なぜなら、技術的に未完成であるからです。

  1. リチウムバッテリーの容量
    → バッテリー容量と走行可能距離は比例するため
  2. 充電用電力源の確保
    → コストが高い電力は敬遠される
  3. 充電時間

 EV が抱える問題は上記3点に集約されます。

 

 まず、バッテリー容量が “ある程度” は必要です。これが小さすぎると走行可能距離が短くなるため、利用できる範囲が限定されてしまうからです。ここは自動車メーカーなどの研究開発競争が行われており、どこかの企業が革新的な技術を開発する見込みがあります。

 充電用の電力源を用意するのは政府の仕事です。充電スポットは各企業に用意させても良いですが、肝心の電力は政府案件です。大量の EV が走行するために必要となる電力量を用意する見通しが立たなければ、EV が普及することは不可能だからです。

 もちろん、電気代が高ければ、EV が敬遠されることは言うまでもないことです。

 そして、充電に要する時間を短縮する解決策も探らなければなりません。スマホやノートパソコンの充電でさえ、それなりの時間を要します。それらとは比較にならないほど容量の大きい EV を充電する訳ですから、“待ち時間” をどのように短縮するのかという解決策の提示が求められることになるでしょう。

 

3:いきなり EV とはならないが、世界は確実に EV へと動いている

 世耕経済相がコメントしたように、いきなり EV とはならないでしょう。しかし、世界は確実に EV へと舵を切り、動いているのです。

 日本市場は世界全体として圧倒的な立場にある訳ではないのですから、EV 化の流れに逆らうことは得策とは言えません。EV への取り組みを怠ると、家電メーカーのように世界市場のニーズから取り残されるという失策を繰り返すことになる可能性は十分すぎるほど存在するのです。

 例えば、EV のバッテリーについては「交換が容易な一定容量の規格が統一されたバッテリー」があれば、現状でも十分通用します。なぜなら、自動車メーカーのディーラー店舗で EV 用バッテリーの交換をすれば済むからです。

 所用時間が 5〜10 分程度で済めば、ガソリン車の給油時間と変わりません。空に近い交換したバッテリーはディーラー店舗で充電すれば、再利用が可能です。

 充電済のバッテリーをあらかじめ複数用意しておき、どの店舗で交換可能のバッテリーがどれだけあるかは専用アプリをインストール済みの  “お得意様” がリアルタイムで確認できれば普及に向けた多くのハードルはクリアできると考えられるからです。

 

 ユーザー部分では本当にちょっとしたことで普及するポテンシャルがどの分野にも存在します。ですが、肝心の電力供給ではそうはいきません。

 供給力と電気料金で経済の優位性が決まろうとする状況になりつつある訳ですから、そうした切り口でマスコミが報じることができなければ、日本経済の存在感がさらに失われることになるという現実を知っておく必要があると言えるのではないでしょうか。