民間企業の待遇が改善し、地方公務員の採用が厳しくなるのは歓迎すべきこと

 「北海道職員の採用辞退率が6割を超えている」、「他の地方自治体でも採用難が起きている」と NHK が伝えています。

 採用担当者にとっては「まさか」の事態が起きており、頭を抱える状況と言えるでしょう。しかし、地方公務員を敬遠する理由が「民間企業の待遇が改善された」など他の職種がより魅力的というものですから、経済情勢は歓迎すべきことと言えるはずです。

 

 「広い北海道では道庁に勤務すると、各地の振興局など札幌から数百キロ離れた場所に赴任することもある。これを嫌い地元の自治体を希望する内定者が多いのではないか」

 地元志向の強さが内定者が流れた原因の一つと見ています。

 (中略)

 東京アカデミーも公務員志望者が減る中、学生を自治体間で取り合う競争が起きているとみています。学生の売り手市場で民間企業が待遇を改善→民間企業の志望者が増加・公務員の志望者が減少→自治体の間で学生の取り合いが激化…という見方です。

 

 

1:「北海道の職員」と「道内自治体の職員」では魅力が異なる

 「北海道の道職員」は「道内自治体の職員」より給与面で魅力がないと採用辞退が起きることは想定しておかなければなりません。なぜなら、転勤がシャレにならない距離だからです。

画像:北海道の総合振興局・振興局

 人口の割合で考えると、北海道の道職員は札幌市のある石狩振興局の管内出身者が多いはずです。

 当然、自分の出身地以外の総合振興局・振興局への赴任が可能性はネガティブな要素となるでしょう。札幌市出身の道職員が十勝総合振興局に赴任し、その後は留萌総合振興局に異動という人事が起きることも想定できるからです。

 これでは、縁もゆかりもない土地への転勤を敬遠し、道内自治体の職員を希望する志望者が増えて当然です。

 転勤のある総合職には手当などで報いるか、地区別に募集人数を事前にオープンにするなど採用方法や報酬体系そのものを見直す必要があるはずです。

 

2:民間企業に人気が集まっていることは経済情勢が好調である証拠

 待遇が改善した民間企業に人気が集まっていることは経済が良好になっている証拠です。なぜなら、働く人のほとんどが民間企業に勤務しているからです。

 国の財政が悲惨なことになって注目されたギリシャは「国民の3人に1人が公務員」ということで多すぎるとの批判を受けました。つまり、公務員が労働者全体に占める割合は 30% にも届かない数値であることが適切なのです。

 要するに、労働者数の 80% を超える民間企業に人気が集まっている状況が本来の姿であり、ごく一部の公務員が人気の職種となっている方が問題として捉えなければならないことなのです。

 日本の法人税は利益をあげた企業にだけ科されるのですから、待遇の良い条件を提示できる優良企業が多くなっている経済情勢は歓迎すべきことだと言えるでしょう。

 

3:地方から人が減って困るのは地方自治体である

 地方の人口減少を悩んでいるのが地元住民であるというのは誤りです。なぜなら、住民には「引っ越し」という選択肢があるため、住みやすい環境に移住することが可能なのです。

 しかし、地方自治体はそうは行きません。

 「愛着がある」という理由で留まる住民はいるでしょう。ですが、仕事を求めて都市部や別の地方自治体に転出した住民が戻ってくることは極めて稀と言えるでしょう。

 住民が減少すれば、住民税の減少し、運営予算が枯渇します。地方自治体の行政サイズをダウンサイジングしたくても、解雇・減給という選択肢は採れないため、行政サービスを削ることになり、それが住民の転出に拍車をかけることになるのです。

 既存の地方自治体を上手く周辺自治体を合併し、効率化することができれば、コンサルタント的な仕事で働き口を得られることでしょう。ただ、成功例となる道筋はまだ誰も発見しておらず、地元の反発から頓挫する可能性の方が高いと思われます。

 

 膨張する一方だった地方行政に歯止めをかけ、効率化を進めることで「21世紀版の地方行政」のロールモデルとなるために人材確保から育成・報酬体系までをどのように見直すのか。地方公務員の確保が逆風にさらされている現実を受け止め、方法そのものを見直す必要があると言えるのではないでしょうか。