“商品の価値” を価格に転嫁できない状況が不正を呼び起こす温床となる

 日産自動車による出荷前検査での不正が明るみに出たことに続き、神戸製鋼でもデータ改ざんという不正が起きていたと NHK が伝えています。

 不正行為は容認されるものではありません。しかし、不正行為に手を染めることになった原因を追求し、根本的な対策を講じなければ、同じ理由による不正が再び発生することを理解しておく必要があると言えるでしょう。

 

 神戸製鋼は8日、ことし8月末までの1年間に出荷したアルミや銅製品全体の4%に当たる製品について、事前に顧客と約束していた強度などを満たしていないにもかかわらず、検査証明書のデータを書き換えるなどしておよそ200社に出荷していたと発表しました。

 (中略)

 データの改ざんは子会社も含めた国内4つの工場で管理職を含む数十人が不正と知りつつ行われ、会社側は、不良品を減らしたり納期を守ったりする目的だったと見られる、と説明しています。

 

 製鋼業界は集約化が進んでおり、巨大企業が世界市場でしのぎを削っているという業界です。

 抜きん出た品質や特許がある製品なら、売り手側が優位となるでしょう。しかし、品質に大きな差のない鋼材であれば、価格でしか違いを生み出すことができず、結果として値下げ合戦に巻き込まれるという問題点を抱えているのです。

 

1:“管理畑” 出身者がトップに就くと、正しい方向性でも会社が疲弊する

 どの業界でも舵取りは難しいものです。ただ、管理畑出身者がトップに就くと、正しい方向性の経営戦略を打ち出しても組織が疲弊するというジレンマに陥る可能性があるのです。

 例えば、「経営環境は厳しく、投資に回せる予算はない。だが、シェアを死守するため、“努力” と “忍耐” で困難を乗り切るべき」と短期的には正しいことを主張する経営陣が出てくることでしょう。

 ところが、「無理な体制」を強いると、しわ寄せが行く現場は疲弊します。そして、元の体制に戻すための閾値が設定されていないことがほとんどですから、引き返すことも不可能となり、転落の原因にもなるのです。

 

2:不採算部門に見切りを付け、収益源に投資する責任を持てるか

 企業は市場のニーズを読み、収益を大きくし、損失は小さくすることが基本です。そのためには「儲からない部門に見切りを付けること」が不可欠です。

 「業界として儲からないのか」、「自分たちのオペレーション(経営)が悪くて儲からないのか」を判断することは経営陣として重要なことです。判断内容によって最善手が変わってくる訳ですから、自己分析力も必要となるのです。

 当然、不採算部門であれば、有効なテコ入れ策を作成し、結果を示さなければなりません。もしくは見切りを付けるかのどちらかです。

 そのための重大な決断をする立場にあるから経営層は高い給与が用意されているのであり、これまでの業績に対する “ご褒美” として高額な賃金が用意されている訳ではないのです。現場の尻を叩くようなプレッシャーをかけるだけでは「賃金に見合った働きができている」とは到底言えないことなのです。

 

3:金銭解雇を認め、企業に重荷を取り除く選択肢を与えるべきだ

 手続きなどの “儀式” を重要視し、その結果として経営判断が遅れるのは企業の自己責任と言えるでしょう。しかし、変革を求める企業の手足を縛るようなことはマイナスしかもたらしません。

 時代のニーズから取り残された部門・社員は企業側に見切りを付ける権限を与えるべきですが、現状では従業員の解雇は不可能なのです。

 これは時代遅れで老朽化した特等車両を連結した状態で、「スピード・安全性・快適性を追求せよ」と要求していることと同じです。利益を生まない特等車両は切り離すべきなのですが、それは認められないというのが日本の現状です。

 ビジネス全体が立ち行かなくなって初めて “切り離し” が認められるというルールでは遅れが生じるのは当たり前。収益を上げる部門にしわ寄せが行き、全体が疲弊することになるのです。当然、正規ルールを逸脱してでも目先の利益を確保するために走ることにも繋がることでしょう。

 

 『買い手市場』であれば、強烈な値下げ圧力がかけられることになります。その際、企業が持っている分野のほとんどがプラスを生み出していれば、不正に手を染めることに踏みとどまれる可能性は高くなるでしょう。

 新しい顧客を開拓する、別分野に進出するという経営的な王道に打って出るための時間があるからです。

 しかし、大黒柱となっている唯一の部門が『買い手市場』であれば、なりふり構わず、不正に手を染める人物が現れることでしょう。1つの企業だけに「魔が差した」というのではなく、社会全体が不正を働かざるを得ないような問題を抱えている可能性があるとの視点で原因究明および対策に取り組む必要があるのではないでしょうか。