政府が “賃上げ要請” しても、社会保障の企業負担分が増えれば、労働者の手取りが増えることはない

 総選挙に勝利した安倍政権が「3% の賃上げを期待している」との要請を経団連にする予定と日経新聞が報じています。しかし、その一方で企業に「社会保険料の負担増」を求めているとテレビ朝日が伝えています。

 これらの2点が実施された場合、労働者の手取りがアップすることはないでしょう。なぜなら、賃金用の原資が社会保険料として消耗されることになるからです。

 

 安倍晋三首相は26日、来年の春季労使交渉をめぐり「3%の賃上げ」への期待を表明する。同日夕の経済財政諮問会議で経済界に伝える。税制改正や生産性革命などで、政府が環境整備を進める考えも示す。経済の好循環を実現する狙い。首相による事実上の賃上げ要請は、これで5年連続。労使が話し合う賃上げ水準について、具体的な数値をあげるのは異例だ。

 

 “賃上げ” という言葉が使われた場合、世間一般は「手取りの賃金」をイメージすることでしょう。

 しかし、企業(=経営者)の場合は「人件費」として捉えます。労働者が賃金を受け取る際には “天引き” が行われており、ここに世間とズレが生じる大きな原因があるのです。

 

1:「企業の人件費」≠「労働者の手取り賃金」

 「企業が負担している人件費」と「労働者が受け取っている手取りの賃金」はイコールではありません。なぜなら、国が天引きを行っているからです。

  • 『企業の人件費』=『労働者の手取り賃金』+『所得税』+『社会保険料』

 企業が支払った給与は『社会保険料』と『所得税』が差し引かれた額が『手取り賃金』という形で従業員の手に渡っているのです。

 また、『社会保険料』は従業員の(雇用主である)企業が折半する形態です。従業員の給与水準によって『社会保険料』は決まる仕組みであり、賃上げを行うことで、企業側の負担も増加するという問題点があるのです。

 

2:安倍政権の “2点の要請” を企業が容認するとどうなるか

 安倍政権は企業に対し、「3% の賃上げ」と「社会保険料の企業負担増」を要請しています。これを企業が容認すると、以下のことが起きるでしょう。

企業
  • 『社会保険料』の企業負担分を増加
    =『人件費』の増
  • 政府からの “要望” に応じたと主張が可能
    → 「原資は従業員と手取りではなく、社会保険料に使った」と言えるため
政府
  • 「企業に賃上げを要請した」との実績
  • 給与を決定するのは企業なので、いつでも “逃げ” を打てる
従業員
  • 企業が負担する『社会保険料』の増加で、賃上げは見送られる可能性がある
  • 高齢者への “仕送り” が優先されるため、割に合わない

 人手不足であるにもかかわらず、賃金が増えない理由は「企業が負担する社会保険料が増えている」からです。

 企業にとっては人件費や電気代はコストであり、使える金額には制限があります。つまり、従業員に還元しようと企業側が考えていても、社会保険料の負担額を行政が引き上げれば、それだけ原資がなくなってしまうのです。

 この状況では従業員の『手取り給与』がアップすることはありません。むしろ、増え続ける『社会保険料』の抑制を主張しないかぎり、根本的な解決にはならないと言えるでしょう。

 

3:社会保障改革を訴える国政政党こそ、必要な存在である

 「必要だから」という理由で、現役世帯に負担を求めてきた社会保障制度は限界に達しています。

 年金や医療という高齢者の生活を支える社会保障に歯止めがなかったことで、現役世帯の負担が一気に増加。「費用の捻出は難しい」と判断した世帯が子育てを断念し、少子高齢化が加速し、取り返しのつかない事態へとなりました。

 資産を持つ高齢者が貧しい若者から年金や医療などの社会保障で “仕送り” を受けているのです。

 安倍政権が『全世代型の社会保障』を掲げるのであれば、「同じ医療サービスが提供されているのだから、後期高齢者であっても、3割負担が当然だ」と批判する政党や政治家が出てくるべきです。これが国会で議論することが求められているテーマと言えるのではないでしょうか。