NATO への防衛費負担をゴネる EU 各国が「独自の防衛協力の枠組み」を発足させると発表

 NHK によりますと、EU は域内の防衛を強化する目的で NATO とは異なる防衛協力の枠組みを発足させることで合意に達したとのことです。

画像:成果を発表する EU のモゲリーニ上級代表

 ただ、この枠組みの先行きは不透明と言えるでしょう。なぜなら、EU 加盟国の多くは NATO で合意に達していた防衛費の負担をすることすら、ゴネる有様だったからです。

 

 常設の防衛協力の枠組みの考えは2009年に発効したEUの基本条約であるリスボン条約に盛り込まれ、ドイツとフランスが議論を主導していましたが、NATOと重複するなどとしてイギリスが反対していました。

 しかし、イギリスがEUからの離脱を決めたことに加え、3年前のウクライナ危機以降、ロシアの脅威が高まっていることや、アメリカで、ヨーロッパの安全保障に関心の薄いトランプ政権が誕生するなど、世界情勢の変化を背景にその後、枠組みの発足に向けた議論は加速していました。

 

 「ヨーロッパの安全保障に関心の薄いトランプ政権」という部分は明らかなフェイクニュースです。

 なぜなら、トランプ政権は NATO 加盟国に対し、「定められた防衛費(GDP の 2%)を支払うか、アメリカが NATO を見捨てるかのどちらかだ」と最後通告を行っていたからです。

 合意済みの防衛費の支払いを渋り続けていたヨーロッパの NATO 加盟国の振る舞いを棚に上げ、「ヨーロッパの安全保障に関心の薄いトランプ政権」と批判するのは明らかに論外だと言えるでしょう。

 

1:組織の多重化は高コストになることは自明

 NATO が存在する中で新たに『独自の防衛協力の枠組み』を作れば、役割が重複することになるでしょう。当然、無駄なコストが生まれる原因となります。

  • NATO
  • 『独自の防衛協力の枠組み』(= EU軍)
  • EU 加盟各国の軍隊

 兵器の調達は大口顧客となれば、価格を下げることができます。しかし、それ以外という点ではメリットはないでしょう。

 『テロなど緊急事態への対応』が項目として想定されていますが、「他国から軍隊の増援を必要とする事態に陥ったのであれば、なぜ NATO の防衛力を使わないのか」という疑問に対する明確な説明ができるのかに疑問が残るところです。

 

2:『ロシアに対する抑止力』を安く手に入れたいだけ

 EU (ドイツやフランス)の本音は「『ロシアに対する抑止力』を安価で確保したい」に過ぎません。

 これまでは NATO で定められた防衛費(加盟国 GDP の 2%)を出し渋って来ましたが、アメリカ側に最後通告を突きつけられ、防衛費アップを約束させられました。従来の戦法ではゴネ続けられなくなったのですから、『独自の防衛協力の枠組み』を用意する価値が生まれたのです。

 今後は「アメリカが NATO に積極的に協力しないなら、『独自の防衛協力の枠組み』に切り替えることも選択肢になる」と開き直って主張することも予想されます。

 EU から離脱するイギリスやロシアをそこまで敵視していないトルコも NATO 加盟国です。『対ロシア』で足並みが揃わない加盟国とは別の『新たな枠組み』を作り、南欧諸国から防衛費を巻き上げる形で運用されることが現時点では可能性が最も高いと言えるでしょう。

 

3:『独自の防衛体制の枠組み』が「ヨーロッパへの難民流入問題」に対応できれば本物

 『独自の防衛体制の枠組み』が求められているのは「ヨーロッパへの難民流入問題」でしょう。1国だけでは対処できる問題ではない上、NATO が想定する軍事的なテーマでもないからです。

 難民流入問題を「安全保障上の問題」として取り組むことができれば、新たに『枠組み』を作る意味はあります

 しかし、この問題から目を背けるのであれば、遅かれ早かれ『枠組み』は行き詰まることになるでしょう。自国の軍隊を廃止し、EU 軍に駐屯させる形となるのです。

 反 EU を掲げる国にプレッシャーをかけるという意味では良い考え方ですが、現実には運営費の負担をめぐってイザコザが絶えない状況になると言えるのではないでしょうか。