「研究不正があったこと」を理由に低評価を与える国立大評価委の姿勢は間違いである
文科省の国立大学法人評価委員会が平成28年度(2016年度)の実績評価を公表し、その中で東京大学が「研究不正があったこと」を理由に低評価になったと日経新聞が報じています。
この評価基準は誤りと言えるでしょう。なぜなら、「研究不正ではない」と結論付ければ、評価を下げられることは回避できるため、不正(隠蔽)の温床になる恐れが高いからです。
文部科学省の国立大学法人評価委員会は21日、国立の86大学と4つの大学共同利用機関の計90法人の6カ年中期計画について、初年度となる2016年度の達成状況の評価結果を公表した。和歌山大と研究不正があった東京大に対し、一部項目で下から2番目の「遅れている」と判断した。
(中略)
「その他」の項目で「遅れている」と評価された東大は分子細胞生物学研究所の教授らによる論文のデータの捏造(ねつぞう)や改ざんが発覚したため。和歌山大は教員の給与体系の見直しが大幅に遅れているとして「業務運営」で「遅れている」と評価された。
1:東京大学への評価(平成28年度)
文科省・国立大評価委による平成28年度の東京大学への評価(PDF)は以下のものです。
項目別では「(4)その他業務運営」のみ、『遅れ』と評されている状況です。『遅れ』と判断された理由は「研究活動における不正行為」と「情報セキュリティマネジメント上の課題」の2点に課題があると見なされたからです。
「情報セキュリティマネジメント上の課題」は問題点を指摘されたにもかかわらず、対策が講じられていない状況なのですから、『遅れ』と評されることは妥当なものと言えるでしょう。しかし、「研究活動における不正行為」という点を問題視することはピントがズレてしまっています。
2:「不正行為ゼロ」は非現実的な目標である
国立大評価委の姿勢が抱える問題点は「研究の不正行為をゼロにする」という極めて非現実的な基準に基づき評価を下していることです。
なぜなら、研究不正は世界中どこの大学でも起きることです。「研究不正があったこと」で罰する(≒ 研究資金が削られる)のであれば、「不正はない」と結論づけるために隠蔽や不正の手抜き調査が横行することになるでしょう。
そのため、「不正が発生した場合に適切な対応を採っていたか」という点で評価すべきなのです。
- プラス査定
- 不正が発生しなかった場合(A+)
- 不正を組織内で発見、適切に対処した場合(A)
- マイナス査定
- 外部からの指摘で不正が発覚(マイナス評価)
→ ただし、指摘後の対処が適切ならプラス評価 - 不正行為の隠蔽は大きなマイナス評価
- 外部からの指摘で不正が発覚(マイナス評価)
『ゼロ』を目標に含めたいのであれば、「研究不正の報告漏れゼロ」、「研究不正への調査未実施ゼロ」といった形にしなければなりません。不正行為は大小様々な形で起きるものであり、適切な対処ができなかった場合に『対応の遅れ』として批判されるべきものなのです。
もちろん、「研究不正はゼロ」であることが理想です。しかし、思い描いた理想どおりにはならないのが現実世界なのです。
現場にある現実に合致した目標と評価体系が構築されていなければ、“理想を達成するための不正” が蔓延る温床になることでしょう。この点において、文科省・国立大評価委が東京大学に下した評価には大きな問題が含まれていると言えるのではないでしょうか。