日馬富士の暴行問題で日本相撲協会・八角理事長が行った講話は無意味、誰も報告しない体制こそ問題だ

 日馬富士の暴行問題で揺れる日本相撲協会ですが、八角理事長が講話を行ったと NHK が伝えています。

画像:対応に注目が集まる八角理事長

 しかし、これは再発防止策とはならないでしょう。なぜなら、問題の本質を解決することはできない施策だからです。

 

 大相撲の横綱 日馬富士は巡業中の先月25日夜、鳥取市内の飲食店で平幕の貴ノ岩を殴ったことを認め、鳥取県警察本部が傷害の疑いで調べています。

 問題を受けて、日本相撲協会の八角理事長は28日夕方、福岡市内に十両以上の力士を集めて再発防止に向けた講話を行いました。この中で八角理事長は「こうした問題を二度と起こしてはならない。問題を一丸となって乗り越えるためにどうすればいいか、皆さんに考えてもらいたい」と述べ、相撲界からの暴力の根絶を訴えました。

 

 「暴力問題を起こしてはならない」と目標を打ち立てることは間違いではありません。暴力は発生しない方が良いに決まっています。しかし、現実問題として不祥事は起きるのです。

 この前提に基づく体制を構築することが再発防止策として求められているのです。「相撲協会の対応は的を得ている」とは言えないのは当然のことと言えるでしょう。

 

1:暴行事件の当事者が誰も日本相撲協会に報告していないことが致命的

 まず、日本相撲協会は体制に問題があります。それは「鳥取県警からの問い合わせで暴行事件が発覚したこと」です。

 暴行事件の現場にいた当事者や親方を含め、誰も日本相撲協会に問題を報告していなかったことが明るみに出たのです。

 この点から、「日本相撲協会には体制上の問題がある」という認識を持たなければなりません。「暴力は根絶しなければならない」と主張したところで、暴力問題が起きたとの報告を受けて動く部門がないのです。

 いじめ問題と同じです。『いじめゼロ』は目標ですが、現実には『いじめ問題』は発生します。「問題は発生する」との前提で対策・体制を準備していなければ、『いじめゼロ』という “目標” を達成するための不正が発生することを招く結果になることでしょう。

 

2:安易に早期幕引きを図ると、逆にダメージが大きくなる

 日本相撲協会としては早期に幕引きをしたいのでしょう。「貴乃花親方が事情聴取に協力しない」と不満を述べる理由はそのような思惑によるものと言えるでしょう。

 警察が事件を調査している間に「協会側の処分」を発表することで、問題の幕引きを図ることが可能になるからです。

 当事者間で『示談』という形に持ち込ませれば、被害届を取り下げされるために圧力をかけることも容易になります。そうすれば、世間的にも「問題は解決した」とアピールできるため、協会には不祥事の収束を急ぐ理由があるのです。

 しかし、これは “諸刃の剣” です。組織体制上の不備があることが明らかな状況で早期の幕引きに奔走すると、隠蔽工作を行っていると見られる要因を作ることになります。この現実を日本相撲協会は自覚することができていなかったと言えるでしょう。

 

3:今後、日本相撲協会が採るべき対応方針

 今後、日本相撲協会が採るべき対応の方針は以下の3点が軸になるでしょう。これらの問題点を放置しているから、事態が大事になったからです。

  1. 「貴乃花親方が調査に応じない」などの批判を止める
  2. 「協会の日馬富士に対する処分は事実関係を把握後に行う」と宣言
  3. 再発防止策は「暴力根絶の啓蒙活動」と「不祥事発生時の報告体制の構築」

 まず、暴力事件の被害者を批判する姿勢は即刻中止すべきです。「警察に被害を訴え出るか」を決めるのは被害者側が決めることであり、被害者が所属していた組織が介入すべきではありません。

 恥ずべきは「被害届を提出した人物が出たこと」ではなく、「組織内に問題行動を起こした人物がいたこと」なのです。したがって、組織がすべきは「問題行動を起こした人物に対する処分内容の決定」となる訳です。

 現状では貴乃花親方が協会側の事情聴取に応じていないため、日本相撲協会は処分を決定することは不可能な状況に置かれています。なら、そのことを素直に世間に発表すれば良いのです。「事情聴取ができず、処分を決めることができない。警察の捜査が終わるまでは待つ予定であり、そのことを理解していただきたい」と述べれば、批判を抑えることはできるでしょう。

 そして、啓蒙活動だけでなく、『不祥事発生時の報告体制の構築』に力を入れる必要があります。「報告がなかったこと」を理由に貴乃花親方に処分を科す方針と一部で報じられていますが、その理由で処分を行うなら、現場にいた白鵬・鶴竜などの力士も同罪です。現場にいた複数の力士に処分を下さなければ、報復行為と見なされることになるのです。

 

 被害者側に組織側(=日本相撲協会)の身勝手な論理を押し付けることは世間から嫌われる要因となります。このことを把握していれば、現時点からでも軌道修正は可能ですが、日本相撲協会の現状対応を見る限りではマズい判断を続けていると言えるのではないでしょうか。