BBC 中国編集長の女性が「男性の海外担当者との賃金格差」を理由に批判するのはおかしい

 BBC の中国編集長を務めるキャリー・グレイシー氏が「男性同僚との賃金格差」を理由に編集長を辞任したと BBC が伝えています。

 グレイシー氏は「BBC の海外担当編集長は同一賃金であるべき」と主張していますが、これは支持されない理由にもなるでしょう。なぜなら、各地域ごとに経営に対する貢献度は異なっているからです。この前提を無視し、同一賃金を要求することは論外と言えるでしょう。

 

 グレイシー氏はブログで、「BBCは受信料を支払う皆さんのものです」と書き、「BBCが平等法に違反し、公平で透明性のある給与体系を求める圧力に抵抗していることを、皆さんは知る権利がある」と説明した。

 グレイシー氏はさらに、同僚で男性の北米編集長と中東編集長が、自分や女性の欧州編集長より「少なくとも50%」高い報酬を得ていると知り、落胆したと書いた。

 (中略)

 グレイシー氏は、4人の海外担当編集長の賃金を同一にするよう求めたのだと明らかにした

 

 

1:地域ごとに差が生じるのは当然だろう

 キャリー・グレイシー氏は「4人の海外担当編集長の賃金を同一にすること」を要求しています。しかし、その報酬体制は不公平と言えるでしょう。なぜなら、ニュースがもたらす経営的価値には差がありますし、BBC の売上高も地域によって違っているはずだからです。

  • 北米編集長(男性):20〜25 万ポンド
  • 中東編集長(男性):15〜20 万ポンド
  • 欧州編集長(女性):?
  • 中国編集長(女性):15 万ポンド未満

 「北米発(主にアメリカ発)のニュース」や「中東発のニュース」はイギリス国内での需要は大きいでしょう。なぜなら、イギリスの政治・経済に直結する内容が多いと言えるからです。

 しかし、「中国発のニュース」はイギリスでの需要は限定的です。遠く離れた極東での出来事なのですから、イギリス国内での需要は低い方に分類されているのです。

 また、BBC などはイギリス国外に番組を放送することで放映権を得ることが可能です。契約者数は地域によって異なる訳ですから、担当するイギリス国外の地域で多くの視聴者を獲得した海外担当編集者に多額の報酬が与えられる賃金体系が構築されているべきなのです。

 

2:キャリー・グレイシー氏の賃金は前任者と比較してどうなのかが最大の注目点だ

 グレイシー氏は「男性の海外担当編集長が少なくとも自分より 50% も多い給与を得ていることにショックを受けた」と主張しています。

 しかし、これは比較対象が間違っていると言えるでしょう。なぜなら、グレイシー氏が比較の対象とするのは「自身の前任者(おそらく男性)が得ていた給与水準」でなければならないからです。

  • 他の海外地域担当編集長との賃金比較
    → 地域ごとの経営格差が含まれる
  • 前任の海外担当編集長との賃金比較
    → 個人の能力によって賃金が算出されているはず

 仮に、グレイシー氏が得ている賃金が前任の中国編集長よりも 50% も低いのであれば、「男女差別の体質がある可能性が高い」と言えるでしょう。編集長を務めるまでの業績が似た状態で 50% も賃金に差があれば、BBC も反論のしようがないはずだからです。

 しかし、グレイシー氏はそうした主張はせず、なぜか他の地域を担当する男性編集長との賃金格差を問題として騒いでいるのです。明らかに比較対象を間違っていると言えるでしょう。

 

 グレイシー氏の主張内容は「『組織に利益をもたらす営業1課のトップ』と『利益を出せない営業2課のトップ』の賃金は “営業課のトップ” という同じ仕事をしているのだから、同一であるべきだ」というものです。

 同一労働・同一賃金を都合よく解釈しすぎた主張を展開していると言えるのではないでしょうか。