安全対策をケチっていた弱者支援団体の失態を行政予算でカバーするのは間違いだ

 札幌市で生活保護受給者などの自立を促す目的で運営されていた共同住宅が全焼した事故で建物の防火体制が杜撰だったことが NHK などで指摘されています。

 火災の原因を札幌市に押し付けることは論外であり、運営者の責任を問うべきでしょう。また、この火災を理由に「弱者支援の充実」を行政に要求することは間違いです。

 運営者が防火対策よりも別の項目に予算を費やしていたのですから、この点が根本的な問題であることを認識した上で、対策を講じなければ同様の建物で被害が再発することになると考えられるからです。

 

 消防によりますと、この建物は、以前は「旅館」として届けられていましたが、平成16年に入居者と賃貸契約を結び、食事を提供する「下宿」に変更され、消火器などは備えられていたものの、スプリンクラーの設置義務はなかったということです。

 また、築50年以上が経過し老朽化が進んでいて、警察と消防は、現場の状況などから短時間のうちに火が燃え広がった可能性があると見て詳しい状況を調べています。

 

 『旅館』として利用されていた建物が2004年(平成16年)に『下宿』に変更され、使用されていたのです。

 この時点で、札幌市が「防火設備の不備」を指摘するという消防経由での行政指導はできないのです。批判を受ける対象は共同住宅の運営者だと言えるでしょう。

 

1:『旅館』と『下宿』における消防設備の設置基準

 スプリンクラーなどの消防設備は “建物の種類” によって基準が異なります。『旅館』と『下宿』では次のような違いがあります。

  • 旅館・ホテル・宿泊所など
    • 特定防火対象物(≒ 防火担当者が必要)
    • スプリンクラー設置義務(延べ面積6000平方メートルなど)
  • 寄宿舎・下宿・共同住宅
    • スプリンクラー設置義務(11階以上の階)

 『旅館』であれば、延べ床面積や階の床面積でスプリンクラーの設置を義務付けられています。

 しかし、『下宿』という形で届け出を行っていれば、スプリンクラーの設置義務は存在しないも同然です。厳密に言うと、11階以上の階に設置する義務が生じますが、今回の事故では除外して問題ないと言えるでしょう。

 

2:『下宿』や『共同住宅』として届け出をし、『宿泊所』として運営できることが問題

 札幌市で発生した火災事故は「届け出の内容」と「利用の実態」が異なるために起きたと表現することが適切だと考えられます。

 『下宿』や『共同住宅』としての届け出が行政に承認されれば、防火設備に投資をする義務から解放されます。「 “浮いた予算” を別の項目に割り当てることが可能になる」と言い換えることもできるでしょう。

 そのため、『下宿』と申請した運営者が実際には『(食事付きの)宿泊所』として運営することが可能になるのです。

 「不特定多数の人が訪れるか」を判断基準にしたとしても、下宿者や共同住宅の住民が友人を招くと「不特定多数の人が訪れること」と同じ結果を招くことになるでしょう。民泊でも同様のことが起きる恐れがある訳ですから、法律による規制が上手く機能しているとは言えない状況が目立ち始めているものと思われます。

 

3:行政が貧困ビジネス運営者に予算を出す方針は間違い

 今回の事故では生活保護受給者などが暮らす共同住宅で発生しました。そのため、「弱者の置かれている環境を改善すべき」との声をあげ、行政からの “さらなる支援増” を要求する界隈がマスコミに登場するはずです。

 しかし、これはおかしいことです。なぜなら、問題を起こしたのは消防設備への投資を怠った状態で施設を運営していた支援団体なのです。

 仮に、行政が防火対策用の予算を出したとしても、それを転用する運営者が必ず出てくることでしょう。「義務」がない訳ですから、今回の札幌市で起きた火災事故のように消極的な判断をする団体は出てくると見ておかなければなりません。

 貧困支援だけが特別枠となれば、一般企業(とそこで働く従業員)がバカを見ることになります。自らの予算で防火設備対策を講じ、身の丈にあった経営をする企業が「明らかに割に合わなくなる」という事態が生じるのです。貧困問題への反感が起きて当然と言えるでしょう。

 

 安全対策をケチったことで事故が起き、行政が再発防止策のための予算を出してくれるのであれば、同じ原因の事故は今後も起きることになるでしょう。どのようなビジネス・活動であれ、安全対策をケチったことへの責任は運営当事者が負うべきだと言えるのではないでしょうか。