『北朝鮮のスリーパー・セル』は確実に日本国内にいるが、その役割を担うのは必ずしも “在日” や “北朝鮮人” とは限らない
「北朝鮮の “潜入工作員” が日本国内にいる」との発言が地上波で報じられたことを受け、一部の界隈が「差別だ」などと批判する声が出ています。
潜入工作員は『スリーパー・セル(sleeper cell)』と称されており、諜報機関を持つどの国にもそうした役割を担う人物が存在します。安全保障に関わるテーマであり、相手国のスリーパー・セルに対する議論すら制限されるような状況は極めて危険であると言えるでしょう。
1:情報収集も諜報活動の一環
『工作員』という言葉から「軍事作戦」をイメージする人が多いでしょう。スパイ物の映画でそういったシーンが中心に描かれていますが、実際の仕事はもっと地味です。
「情報収集」と「自国に親和性を持たせる世論形成」の2つが大部分と言えるでしょう。
ただ、『工作員』は自らが先頭に立つのではなく、実行できる立場にいる人物をスカウトする形で運用されているはずです。工作員が欲しがる機密情報はアクセス制限が厳しく、簡単に情報収集ができないよう自衛策が施されているからです。
一般企業でも他部門の持つデータや資料を閲覧することはできないでしょう。それと同じで、“権限を持つ人物” にどう近づけるかが『工作員』の腕の見せ所となるのです。
2:北朝鮮の工作員は日本国内に存在する
平成29年版の警察白書には次の記述があります。
北朝鮮は、我が国においても、潜伏する工作員等を通じて活発に各種情報収集活動を行っているとみられるほか、訪朝団の受入れ等、我が国における親朝世論を形成するための活動を活発化させている。
朝鮮総聯は、28年2月、外為法違反事件に係る警察による朝鮮商工会館に対する強制捜査に関連し、機関誌への批判文の掲載等の抗議・けん制活動を行った。また、各種行事等に我が国の国会議員、著名人等を招待し、北朝鮮及び朝鮮総聯の活動に対する理解を得るとともに、支援等を行うよう働き掛けるなど、我が国の各界関係者に対して、諸工作を展開している。
要するに、「北朝鮮は『情報戦』に関する工作活動を行っている」と警察白書に明記されているのです。
北朝鮮本国から潜入した工作員(=スリーパー・セル)がどれだけ潜んでいるかは定かではありませんが、“北朝鮮の工作員” は確実に存在すると見なされているのです。この点を踏まえた安全保障対策は必要不可欠と言えるでしょう。
ちなみに、公安には「(法務省が管轄する)公安調査庁」と「(警察組織の)公安部」が存在しており、両者を混同しないよう注意する必要があります。
公安調査庁 | 公安部 | |
---|---|---|
上部組織 | 法務省 |
|
主な業務 | 破防法や団体規制法に該当する団体かの調査 | 「公共の安全と秩序」を維持することを目的として警察組織 |
司法警察権 (逮捕・家宅捜索) |
なし | あり |
年次報告 | 『内外情勢の回顧と展望』 | 『警察白書』 |
3:“戦闘やテロを行うためのスリーパー・セル” が侵入済みである可能性は現時点では低い
戦闘やテロを起こすようなスリーパー・セルが日本に侵入済みかと言いますと、現時点ではその可能性は極めて低いと言えるでしょう。なぜなら、対費用効果が悪すぎるからです。
- 戦闘訓練やテロ実施訓練を工作員に施しておくことが必須
- 本国から実行命令がなければ、潜入させるだけコストが増加
- 特定国に潜入中は行動が大きく制約
“特殊任務” ですから、高い能力が要求されます。また、潜入させる期間が長期間になればなるほど費用が大きくなるとのマイナス面は決して無視できるものではありません。
そのため、「必要になった際はいつでも “戦闘・テロ行為ができる工作員” を受け入れられる体制を構築している」ということが現実に存在する脅威だと言えるでしょう。
4:一般企業・団体や大使館など “隠れ蓑” は数多く存在する
スリーパー・セルにとって重要なのは「一般人の中に自然に紛れ込むことができるか」という点に集約されます。この点では外資系企業や団体、大使館は理想的と言えるでしょう。“木の葉を隠すなら森に隠せ” という状況にあるからです。
受け入れ組織を複数用意した上で、工作員を分散して招き入れ、装備品についても同様に個別で準備する。団体間のつながりを表面上は絶っていることで発覚を遅らせることができますし、実際に動き出した証拠を押さえられなければ、警察は動けないことは暴力団や過激派の活動からも明らかです。
その上、日本には “北朝鮮に寄り添うマスコミ” が多く存在していますので、情報戦での『協力者』に困ることはないでしょう。
「潜入して沈黙を続ける北朝鮮籍を持つスリーパー・セル」より、「北朝鮮のために積極的に尽力する日本国籍を保有する協力者」の方が悪質度が高く、厄介であるという認識で安全保障対策を実行する必要があると言えるのではないでしょうか。